熊本大学黒髪キャンパスから1kmほど西側にある「子飼商店街」。加藤清正が城下町をつくるずっと前、一説には奈良時代から交通の要衝として栄えたともいわれています。
400mほどの通りには、八百屋、肉屋、惣菜屋、食堂、衣料品、文房具店など人々の生活に欠かせない店が軒を連ねる、熊本を代表する商店街です。店主とお客が会話を交わして買い物を楽しむ様子は昭和レトロな雰囲気。今でも、店主となじみ客が会話を交わし人々の暮らしの息遣いを肌で感じることができる場所です。
そんな小さな商店街は、熊大の学生たちの暮らしにも身近なところ。「テストどうやった?」「ごはん食べよるね?」お母さんのような店主の声掛けに励まされるという一人の学生に出会いました。
学生割引のある飲食店や、野菜をおまけしてくれるおばちゃんなどなど、3年生にもなれば、商店街の店主たちと顔見知りなのだとか。「ここは第二の故郷、いや実家のリビングみたいなもんです」と彼は笑って、キャベツを片手に歩き出しました。
そんな「子飼商店街」の魅力を探して筆者も商店街を歩いてみました。
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「子飼商店街の魅力や価値を言語化し、未来につなぐきっかけを見つけたい」と語る髙木准教授 |
「子飼商店街」を歩くたびに感じることがあります。どうしてここには故郷のようなぬくもりに満ちているのだろう、と。
6月3日(土)朝10時、この日は3カ月に一度の「子飼100円笑店街」の日。それぞれの店のお薦め商品が100円で提供されるとあって、早くも大勢の客でにぎわっており、すでに売り切れた商品もあるほどです。
子どもたちの楽しそうな声の先には、スーパーボールすくいや輪投げなどのコーナーも。笑顔で子どもたちと接する若者たちに声を掛けると、熊本大学法学部 髙木康衣准教授研究室のゼミ生と教養教育「ボランティア実践」を履修する学生たちでした。人気の「100円笑店街」や、ライトアップされた風情を楽しめる「日夜祭」などのイベント時に、講義の一環としてボランティアで運営を手伝っています。
平成28年熊本地震をきっかけにボランティア活動に興味を持ったという法学部法学科3年の山本 祐貴さん。「『子飼商店街』での活動でさまざまな気付きを得ることができています。ボランティアは“心”。最も優しく思いやりを持った行動だと思う。誰かのために行動する喜びを感じています」。
聞けば、髙木准教授のゼミでは2022年から商法・会社法の観点を持ちながら、持続可能な「子飼商店街」のあり方について研究しているのだとか。「熊本は人口の割には大企業が少なく、多くの中小企業に支えられています。事業承継や世代交代など、さまざまな課題に直面する『子飼商店街』を研究フィールドとすることで、中小企業の実態調査や企業価値創造に向けて考察を深めることにつながります」と語る髙木准教授。「単に寄り添うだけのボランティアではなく、商店街の活性化のために、自分たちがどのような行動をすればよいのかという視点を持ちながら活動してほしい」と学生たちにエールを送ります。
しかし、今の学生やその親世代は大型ショッピングモールなどで買い物するのが主流。“商店街”になじみのない学生たちは、当初戸惑っていたものの、今では店主にさまざまな提案を持ち掛けるなど、法的な視点を持ちながら、商店街の活性化に関わるようになりました。それが店主たちとの交流を生み、さまざまな展開が生まれています。
髙木准教授が「子飼商店街」に興味を持ったのは、「株式会社urban direction」代表・いずみ和泉 しげる秀さんの活動がきっかけでした。熊本大学大学院で建築を学んだ和泉さんは商店街に「ひづきどう陽月堂」というカフェをつくり、学生や地域の人が気軽に交流できる場を提供し、商店街の活性化に取り組んでいます。「『子飼商店街』には、若者が好むような店やイベントが少ない。だからこそ、若い世代が主体となって商店街に関わることで、その魅力を掘り起こし、パワーも生まれてくる。学生たちがこの場所に来てくれることに意義がある」と、和泉さんはその活動を評価します。
とはいえ、この「子飼商店街」をはじめ、多くの商店街の現実や未来は、決して明るいものだけではありません。
商店街には熊本地震で被災したり、事業承継がうまくいかないなど、さまざまな理由でシャッターを閉ざした店が増えています。ある店主は「平日の昼間は静かなもんよ、昔の賑わいはなくなってしもうた。店主の中には、自分たちの代で店が終わればよかて思ってる人も多かけど、商店街には商店街の役割があるけんね。こうやってお客さんと冗談を言いながら商うのが商店街の一番の楽しさ。それを若い人も巻き込んで、つなげていきたいね」と話してくれました。
髙木准教授は、厳しい「子飼商店街」の現実と関わることで新たな視点が生まれたといいます。「企業の理想の姿は、合理的かつ効率的に利益を上げることだと私自身が学んできたし、学生にもそう教えてきました。でも、ここに関わるようになって資本主義的な競争に勝つことだけが、企業の価値ではないのではないかと考えるようになりました」。
さらに髙木准教授は、言葉をつなぎます。「ボランティア実践で地域の役に立つ喜びや達成感を得た学生たちは、表情から変わっていきました。受け身だった学生も、今では積極的に携わっています」。
ボランティアに汗を流す学生たちに声を掛ける店主たちのうれしそうな笑顔が、商店街のあちこちに咲いていきます。「若い世代が商店街に足を運んでくれて、ありがたか。私たちも踏ん張らんといかんね」と、店主たちが、お客を呼び込む声にも力がこもります。
店主たち、和泉さん、髙木准教授と学生たち……この通りで出会った誰もが、商店街の課題や未来を真剣に考えて行動していることを感じました。
すでに子飼商店街ファンの方はこれからも、子飼商店街で買い物をしたことがない方も、個性あふれる店主たちに会いに、商店街を訪れてみませんか。
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ゼミ生が、商店街に関するアンケートを収集。協力した人には綿菓子を無料でプレゼント | 「まちという器を時間とともに流動する人・モノ・価値の中には不変のものがある。それを見極めて活性化の力にしたい」という和泉さん |
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❶ 一人でも多くの人の役に立ちたいと、ボランティアサークルでも活動する法学部法学科3年・山本 祐貴さん/❷ 学生たちは、全て手作りの看板やツールを工夫し、キッズコーナーを運営している/❸ スーパーボールすくいは人気のコーナー/❹ユニークなシャッターが商店街を彩る/❺ キッズコーナーに行列ができた! 老若男女でにぎわう100円笑店街/❻「 学生さんたちのおかげで商店街が活気づくよ」とほほ笑む松本青果店・松本恵美子さん/❼「 子飼商店街」で商って60年、「双葉寿司」の安田幸宏さん・紀子さんご夫妻/❽「 ラーメン臨機」店主の中川原堅一郎さん。商店街活性化に熱い思いを抱いている/❾「 髙光金物店」店主の髙光守康さん。「おしゃべりを楽しんで、お得な情報をゲットしてほしい」と話す/10「 髙光金物店」イチオシの木製急須 |