研究室探訪

 熊本大学発生医学研究所・ゲノム神経学分野は、塩田倫史教授が率いる研究室。DNAやRNAがつくる特殊な立体構造に注目し、「私たちがどのように記憶し、なぜ一人ひとり異なる個性を持つのか」、そして「その仕組みが乱れると、なぜ神経の病気が起こるのか」を明らかにする研究を行っています。

 DNAの一般的な「二重らせん構造」は、「B型DNA」と呼ばれます。しかし実際には、DNAやRNAは細胞の中でさまざまな形に折りたたまれ、左巻きのらせんや三重鎖、四重鎖など、通常とは異なる構造をつくることがあります。こうした特殊な構造は「非B型核酸構造」と呼ばれ、遺伝子の働きや神経細胞の活動、さらには神経疾患とも関係している可能性があるとして注目されています。その中で塩田研究室が特に研究しているのが、「グアニン四重鎖(G4)」という構造。DNAやRNAの中でもグアニンという塩基が多い部分で形成される特殊な立体構造です。研究室では、G4が神経細胞の発達や情報伝達、記憶の形成にどのように関わっているのかを調べています。また、G4の異常が神経疾患の発症につながる仕組みを解明し、新しい治療法の開発につなげる研究も進めています。

 近年、塩田研究室は、RNAのG4構造が神経変性疾患に関わるタンパク質の凝集を引き起こす「足場」として働くことを発見しました。たとえば、パーキンソン病に関係するα-シヌクレインというタンパク質が、RNAのG4構造を足場として集まりやすくなることを明らかにし、2024年に世界的な学術誌『Cell』に掲載。また、アルツハイマー病に関係するタウタンパク質についても、RNAのG4構造とカルシウムイオンが協力してタンパク質の性質を変化させることを報告しています。これらの研究成果は、DNAやRNAの特殊な構造を標的とした新しい神経疾患治療法の開発につながる可能性があります。

様々な器具や試薬が並ぶラボ
お互いに意見を仰ぐこともある研究室仲間

ゲノムの特徴と脳の働きを結び付けて考える、ユニークな研究室

塩田 倫史教授
熊本大学発生医学研究所
ゲノム神経学分野

 私たちの研究室では、「脳はなぜ記憶できるのか」「なぜ忘れてしまうのか」「どうして脳の働きが変わると病気につながるのか」といった、身近だけれどとても大きな疑問に取り組んでいます。その手がかりとして注目しているのが、DNAやRNAの少し変わった形。特殊な核酸の形が、脳の働きや記憶、さらには認知症やパーキンソン病のような神経疾患にどのように関わっているのかを調べています。

 生き物によってかかりやすい病気や脳の働きには違いがあり、たとえば、マウスはヒトと同じような認知症を自然には起こしにくいことが知られています。こうした違いの背景には、ゲノムや核酸の構造の違いが関係しているかもしれません。ゲノムの特徴と脳の働きを結びつけて考えることが、私たちの研究室の大きな特色です。

 研究というと難しく感じるかもしれませんが、出発点はとてもシンプル。「なぜだろう」と思う気持ちが研究の入口です。勉強しているときに「どうして覚えられないのだろう」「なぜすぐ忘れてしまうのだろう」と感じることがあるかもしれません。そのような日常の疑問も、深く考えていくと脳の仕組みを知る研究につながっていきます。

 学生の皆さんには、まず研究を楽しんでほしいと思っています。実験をして、結果を見て、仲間と話し合いながら考える。その過程で、論理的に考える力や、自分の考えを人に伝える力が自然と身についていきます。研究は一人で進めるものではなく、周りの人と協力しながら進めるもの。研究室で身につけた力は、将来どのような道に進んでも必ず役に立つはずです。

  • 実験結果を
    世界で一番目に見る
    そんなワクワクが
    研究の醍醐味
    博士課程1年
    工藤 健太さん
    Kenta KUDO

     高校の授業で遺伝子の仕組みに興味を持ちました。そのほかに、脳や神経についても研究してみたいと思っていたら、その両方をやれるこの研究室を知り、自分にぴったりだと思い選びました。

     現在の研究テーマは、canvasという遺伝性の希少疾患のメカニズム解明。RNAがゴミのように蓄積されるのではないかという予想を立てて実験を進めています。実験漬けの毎日で、思うようなデータが出なかったり、一度やった実験をもう一度やると違う結果が出たり、大変なことも多いです。一方で、その実験結果を見られるのは自分が世界で一番目という、そのワクワク感や喜びが楽しみの一つ。まだ将来を具体的には決めていませんが、研究を続け、社会に貢献できる人材になりたいです。

  • 塩田教授との
    ディスカッションが
    研究室選びの
    決め手に
    学部4年
    竹添 美咲さん
    Misaki TAKEZOE

     学部3年生で研究室に配属されるとき、いろいろな研究室を見て回った中で塩田教授とのディスカッションが印象的だったことや充実した実験設備に「ビビッ」ときて、この研究室を選びました。現在は、脳内のミエリンベーシックプロテインというタンパク質に着目しその機能解析を行っています。これが卒論テーマになる予定で、卒業後は大学院に進学し研究を続けたいと考えています。

     研究室に配属されてまだ1年ですが、まったく経験がなかった実験も、その計画を立てる力や、論文を読んで必要な情報を集める力などがついてきたと思います。わからないときに人に聞くということも同じく「力」の一つ。これも、塩田研究室で培われていると思っています。


  • 細胞の培地交換をする工藤さん

  • 顕微鏡をのぞく竹添さん

  • 研究室の外で親睦を深める機会も

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