2016年4月、震度7という巨大地震が2度も熊本を襲いました。熊本大学も大きな被害を受けましたが、この10年で力強く立ち直っています。
しかし、復興や防災に「ここまででいい」というゴールはありません。地震から10年の節目におけるメッセージを小川久雄学長から、そして、今改めて考えるべき防災について、竹内裕希子副学長から話を伺いました。
2026 年4月、学業の場ではまた新しい一年が始まりました。今年度は熊本大学にとって、新設の共創学環がスタートする記念すべき年。加えて、熊本地震から10 年という節目の年でもあります。
熊本地震発生時、私は国立循環器病研究センターの理事長に就任したばかりでしたが、発災から数日後には帰熊し、国立循環器病研究センターの医療チームとともに救援活動を開始。被災者の治療だけでなく、避難生活の車中泊に起因するエコノミークラス症候群の予防啓発に努めたことも記憶しています。
この医療活動においては、今後に生かせる様々な学びがありました。そのひとつが、大災害発生時に各地からやってくる救援隊については統括するリーダーが不可欠だということ。熊本大学は、熊本県内では唯一附属病院を持つ総合大学であり、医療はもちろん、竹内裕希子副学長をはじめとした防災が専門の研究者も在籍しています。地域でこういった非常事態が起これば、様々な意見を聞き予測を立て、必要な手を打つためのリーダーシップを取る、その責務を担うことができ、かつ、担わなければならないのが私たち熊本大学です。熊本地震から10 年の節目に、私たちはその覚悟を新たにしています。
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| 熊本地震で、ドクターカーとともに活動する 国立循環器病研究センター医療チーム |
私は循環器を専門とする医師であり、医療と自然災害への対策は同じだと考えています。医療で言う、まずは命を救う「急性期」である災害直後への対応も大事ですが、「慢性期」にあたる災害からの復興期も同様に重要です。医療で言えば慢性期にあたるこの10 年、地震前にも増して力強く歩みを進めているのが熊本大学。一例として、今年度開設の共創学環だけでなく、2024 年度に情報融合学環と工学部半導体デバイス工学課程も新設し、持続可能社会の実現に貢献する多様な人材育成を担います。復興とは単に元に戻すことではなく以前よりもより良くなっていくことであり、そこにゴールはないと私たちは考えます。
今、熊本県は半導体で盛り上がっています。しかしこれも、半導体だけで終わってはならず、半導体を武器に様々な新しいビジネスを創出することが不可欠。そうやって構築された堅固な産業基盤に支えられた地域なら、もしまた大きな自然災害が起こり打ちのめされることがあっても、必ず、私たちを力強く立ち上がらせてくれるはずです。教育、研究、そして社会貢献という大学の役割を果たしながら、強靭な地域を創生していくことが熊本大学の使命です。
防災が専門の研究者であり、2025年10月に熊本大学の防災および安全管理担当の副学長に就任した竹内裕希子教授が、防災についてメッセージをくれました。
昨年度、熊本大学が「防災・安全管理担当副学長」という役職を創設し私にお声がけいただいた際に、防災の研究者として、自分が所属する大学の安全管理に関わらずにいられない使命を感じ、拝命することとなりました。このような役職はほかの国立大学にはなく、大きな災害を経験した地にある熊本大学らしい役職ではないかと考えています。
役割のひとつは、本学におけるリスクマネジメントです。本学は熊本地震後に災害を含む緊急時に業務を継続し、早急に復旧させるための計画(BCP:事業継続計画)を策定しています。このBCPが、施設の被害や、学生および教職員の安否確認、さらにはその次の、どう復旧しどう教育を継続しどう復興していくのか、被災後72時間以降も見据えたものになっているかを確認していくことも、私の重要な責務です。
防災について、私はいつも「情報で備える」「物で備える」「人のつながりで備える」という3つの備えの重要性を伝えています。
防災と聞けば「非常袋」を準備しようと考えると思いますが、そもそも非常袋はどんな時に使うのかを考えれば、非常袋の前にまずは自分が遭うかもしれない災害を知るべきです。そのためにはまずハザードマップや過去の災害記録を見て、自分の地域でどんな災害が起こる可能性があるのかを知ることが不可欠。そして自分と同じ世代の人はどのような状況に陥ったのか、子どもがいる人はどうしたのか、家族の介護をしていた人はどうしたか。仕事はどうしたのか。そういうことを具体的に知っていくと、どのような準備が自分を助けるのかがわかり、非常袋や備蓄の中身が変わります。
災害時の行動も、避難所に行くだけが対策ではありません。避難所生活がどのようなものかを知り、そこでの生活が難しいと感じるなら、ほかの選択肢として車中泊などを考えておくべきです。しかしそれも、車があれば安心とはいかず、車の中でどんな備品が必要か、車中泊できる場所はどこか、知っておかないといけません。こういった、「情報の備え」を踏まえて「物の備え」を実行してほしいと思います。そして、「人とのつながりで備える」ことも大切です。熊本地震の時は多くの人が人とのつながりや助け合いの重要性に気が付きましたが、人との関係性はいきなり作れるわけではありません。誰と助け合えるか、助けてあげられるか、といったことを日ごろから考え、その関係を構築しておくことが大事。地域の防災でも大学の防災でも、基本は同じだと考えています。
私は、工学部公認の災害ボランティアサークル熊助組の顧問も担当しています。熊助組は2007年に設立された団体で熊本地震でも活動しましたが、実は、熊本大学内の避難所運営からは早々に撤退し、熊本市社会福祉協議会へ支援に行きました。学内にはほかのサークルなどの団体もいたので、熊助組は学外の手薄なところへ向かった。これは、彼らが日ごろからボランティアについて学んでいたからできたことでした。
熊本地震の時には、学部や所属サークル等を問わず多くの熊大生がボランティアを実施し、地域の皆さまからも大変感謝されました。しかし後日の調査で、「本当は帰りたかったけど帰れなかった」「避難者から職員と間違えられ、説教をされて辛かった」などという声も聞かれました。ボランティアとは基本的に自主性に基づくものであり、やりたくないならやらなくていい。そういったことを知らずにボランティアをした学生たちの中に、辛い思いをした人がいたことも事実です。
熊助組は、設立から間もなく20 年を迎えます。ボランティアとはなにか、災害現場とはどのような場所なのかを日ごろから学び、自分を犠牲にしない支援を行えるように準備をしています。彼らがこれからも学び続けられる機会の創出や、安全な活動を継続するためには資金が必要で、そのためのクラウドファンディングを現在実施させていただいています。未来へ「たすけあい」を繋ぐために、多くの方の支援をお願いできれば幸いです。
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| 熊助組メンバー |