特集Ⅱ 熊本大学のアントレプレナーシップ教育

これからの時代を生き抜くために必要とされるアントレプレナーシップ。
熊本大学は今、アントレプレナーシップ教育に力を入れています。

アントレプレナーシップとは何か。
なぜ今、アントレプレナーシップが必要なのか。

熊本大学のアントレプレナーシップ教育を担当する研究開発戦略本部ベンチャー推進部門の入江英也特任教授と猪俣雄也特任准教授が質問に答えてくれました!

  • 入江 英也特任教授

    大学3年生次に学生起業し、現在、株式会社ユウシステム代表取締役として、福岡 /上海 /バンコク /マニラに事業展開し30年以上経営を行ってきました。現在は、熊本大学のアントレプレナーシップ教育の実務責任者を務めています。佐世保工業高等専門学校電子制御工学科准教授、神山まるごと高専デザイン・エンジニアリング学科准教授(徳島県)、熊本高専リベラルアーツ科准教授、佐世保高専特命准教授、函館高専客員教授を兼務。

  • 猪俣 雄也特任准教授

    熊本銀行から出向し、アントレプレナーシップ教育や研究者のベンチャー創出を金融の面から伴走支援しています。アントレプレナーシップ教育では、ビジネスアイデア創出や、事業計画の作り方などの講義を担当しています。熊本銀行では、16年で約100社の新規起業を支援してきました。その経験を活かし、熊本大学の研究者の起業支援についても積極的に行っています。

2025年度 熊本大学アントレプレナーシップ教育全体像
そもそも、アントレプレナーシップとは何ですか?

入江 日本語に直訳すれば「起業家精神」ですが、起業するためだけに必要なマインドというわけではありません。失敗を恐れずに踏み出し、社会課題を解決する新しい価値を自分で創造することに挑戦できるマインドのことであり、会社員や公務員になったとしても、これからの社会を担う人材には必ず求められる姿勢です。
現代社会は「VUCA」の時代といわれています。「VUCA」はVolatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字。私たち人類がこれまでに経験したことのない出来事が次々と起こる予測不能な今の世の中を指す言葉として使われています。そんなVUCAの時代を生きるためにもアントレプレナーシップが大事なんです。

現代の社会では、どのような人材が求められていますか?

入江 大学で専門を学んだからといって、その世界で言われたことだけをやっていてはだめ。企業においても、変化の激しい時代に既存の製品やサービスの枠を超えた新しい価値の創造は必須です。それが社会課題の解決につながるよう、自分の専門性と結び付けて自ら考え、ビジネスとして事業化できる人材が求められています。

だから、大学もアントレプレナーシップ教育に力を入れているのでしょうか。

入江 世界トップに名を連ねるGoogleやAmazonは比較的最近できた企業。1990年代には世界トップ50のうち30社くらいが日本企業でしたが、現在はトップ35にやっとトヨタ自動車1社が入るという状況です。つまりこの30年、日本では世界をリードする革新的な大企業が生まれていないということ。だから文部科学省も経済産業省も、大学におけるアントレプレナーシップ教育および大学発ベンチャーに力を入れています。研究教育機関である大学では、単なる思いつきのアイデアではなく、特許などの知財をベースとした、他者が簡単には真似できない事業を生み出せる可能性を持っているからです。

日本でも、スティーブ・ジョブズは生まれるでしょうか。

入江 私も30年前、大学3年生で起業した一人です。当時は周囲から、なんでそんなリスクをとるんだと言われました。でも所属する研究室の指導教員である私の師に、「アメリカでは若者がガレージから起業しているんだ。君にだってできる」と言われて、それを真に受けました(笑)。
大学の中で事業を考え実践できることは、言い換えれば、失敗しても大丈夫ということです。守られている学生の間に、起業じゃなくてもいいから、考えて挑戦してみる。その経験の積み重ねが、将来きっと役に立つはずです。

猪俣 その通りだと思います。アントレプレナーシップに必要なのは、一歩を踏み出せるかどうか。そうなるためにはやっぱり、いろいろな経験を積める場に立ってみることです。熊大生の中で主体的に動ける学生をさらに育てていきたいですね。

熊本大学のアントレプレナーシップ教育とは?

猪俣 まずは、イノベーションとはなにか、先が読めない現代社会ではどんなマインドが必要かといった、インプットから始めます。次に、事業計画の作り方や資金調達方法などを学びます。その後、社会課題をわかったうえで自分の専門と事業を結び付けていきます。大きく分けて、アントレプレナーシップ入門、概論、実践の3つです。
教養科目として全学部の学生が履修でき、博士課程にも講義が用意されています。自分たちでアイデアを発想し、プレゼン資料を自分で作り発表するなど、アウトプットにも重点を置いた一気通貫型の実践的授業です。上場企業や、地場企業で活躍されている方や、他大学の教員に来ていただき、直接学生への指導をお願いしています。

授業以外には、どんな学びができますか?

猪俣 本学には「学生ベンチャー 夢プロジェクト」という、熊大生の事業アイデアのブラッシュアップや、試作品開発に向けた活動資金の援助を行うプロジェクトがあります。それから、起業をキーワードとして活動する社会自由研究サークル「SIRKU」もあります。起業に特化しているわけではないのですが、アントレプレナーシップの醸成を意識した活動をしています。

熊大生をはじめ、これから社会を担う人たちへメッセージを!

猪俣 熊大生には「公務員になりたい」という学生が多いと感じています。でも、公務員になって何をしたいのかと聞くと、答えに詰まってしまう。もったいないと思います。公務員なら自分のまちを変える、企業なら社長に直談判する。ただ言われたことをこなすのではなく、「こうやったらおもしろいんじゃないか」と発想し挑戦できる人材になってほしいです。

入江 個で闘う外国人に比べ、組織の看板を背負って頑張るのが日本人。そのために、看板がなくなった途端に途方に暮れてしまう人が多いと思います。私は自己紹介にもあるようにエフォート(従事比率)を分けていて、様々な肩書を持っています。終身雇用が徐々になくなり人口も減る今、これからは能力のシェアリングの時代です。肩書の力ではなく、「自分で生きていく力」が必要だということを、これからも伝えていきたいと思っています。

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