熊本大学整形外科学講座では、大きく分けて、整形外科疾患のメカニズム解明などの基礎研究と、同じ疾患を持つ患者さんを追跡・観察する分析疫学の手法の一つであるコホート研究という臨床研究、この2つに取り組んでいます。
基礎研究で扱っている一例が骨粗しょう症。疾患のメカニズムを明らかにするため、マウスの細胞を培養し骨を吸収する破骨細胞と呼ばれる細胞をつくったり、遺伝子を見るなどの研究を進めています。治療標的や薬剤も探索し、近い将来に臨床応用ができることも目標の一つです。
コホート研究として進めている一つが大腿骨の骨折。骨折した患者さんの様々な情報を集めて分析。そうすると、折れるリスクになる要因を把握でき、骨折予防につなげることが可能です。データは、熊本県の病院や施設はもちろん、県や市町村という自治体とも連携し収集。自治体と協働でこのような研究を進める大学の研究室は珍しい存在です。
整形外科学講座を率いる宮本健史教授に聞きました!
熊本大学の整形外科学講座には、リハビリテーションや、骨粗しょう症と共通の疾患がある歯科口腔外科からの大学院生もいます。私は慶應義塾大学医学部の整形外科学も兼任しているため、合わせると研究メンバーは私を含め37人です。
人生の中の貴重な時間を使って研究する以上、私は、研究がその人の成長につながってほしいと思っています。個人の成長が組織の成長につながり、さらに彼らが学会等に参加して常に新しい情報に触れ、それを熊本にもたらしてくれれば、地域医療にもプラスになります。個人の成長が組織の成長に、そしてそれが地域と患者さんの利益にもつながっていく、そんな良い流れを構築することが、自分の仕事だと考えています。
研修医として2年間、整形外科に入局して臨床医として5年間経験を積んだあと、この整形外科学講座に入りました。宮本教授は骨粗しょう症研究では著名な先生。この講座では宮本教授のもと、全員が、それぞれの目標や熱意をもって日々研究にいそしんでいます。
私は、根治させる薬がまだない疾患である骨腫瘍のうちの一つを研究しています。腫瘍に特徴的な遺伝子の変化はわかっているのですが、その変化が何を意味するかなどはわかっていません。それを明らかにして、薬など治療方法の開発につながれば、と考えています。
今年が博士課程最後の1年。修了後は整形外科の執刀医として実臨床に携わりたいと考えています。外科系分野は手術に必要な手技を磨く必要があり、研究だけに没頭する時間をもったいないと感じる人もいるかもしれません。しかし、ものの考え方や見方を突き詰められる研究を行う4年間は、決してブランクにはなりません。臨床医として誰もが持つ疑問や課題を、一度基本に立ち返って研究という形で探究できるのは魅力だと思います。
熊本県内にある総合病院の常勤医として勤務しつつ、週に1度、熊本大学の整形外科学講座で研究を進めています。行っているのは、大腿骨の付け根部分の骨折である大腿骨近位部骨折に関するコホート研究。骨粗しょう症は骨折を繰り返す特徴があります。両側にある大腿骨の片方を骨折し、さらにもう片方が折れる因子になるものは何か。最初の骨折のデータをもとに、その後もう片方も骨折したか否か、要介護度はどうなったか、亡くなってしまったか、その3つに関して1年後のデータを収集。時間をかけて観察し分析することで予防法の確立を目指す研究です。
博士課程修了後は整形外科医として、手術はもちろん、手術をしない保存的治療など、患者さんに適した医療が提供できることが理想です。もちろん、研究に費やす時間もとても有意義だと思います。エビデンスや医療指針に基づいて医療を行うのが医師。そのエビデンスがどんな研究から得られているのか、指針がどう作られているのかを、臨床研究を通して学ぶことができています。