医学生としてALS研究にも力を尽くし
2度のポスター賞受賞!

医学部医学科6年

川江 優月(かわえ ゆづき)さん

研究
インタビュー担当

インタビュー担当の健児くんです。
今回ご紹介するのは、熊本大学医学部医学科6年生の川江優月さん。医学生として学業に励む傍ら、研究にも力を注ぎ、2024年の第9回西日本医学生学術フォーラムでポスター賞を、同年の日本神経科学学会では、ジュニア・インベスティゲーター・ポスター賞を受賞するという快挙を達成しました。

病気で苦しむ人に治療法を届けたいと、医師を志すように

まずは、川江さんのこれまでのご経歴について紹介してください。

 高校生の時、私の知り合いの方が筋萎縮性側索硬化症(ALS)を発症しました。それをきっかけにALSについて調べるうち、医学にも興味を持つようになりました。それまでは生物の勉強が好きで、大学では、理学や農学分野などで研究がしてみたいと考えていたんです。でもせっかく研究するなら、病気で苦しんでいる方に治療法を届けられるようなことをやってみたいと医学部進学を考えるようになりました。その中で進学先として選んだのが、研究と臨床の両方に力を入れている熊本大学医学部でした。

熊本大学進学後すぐに研究を始めたんですか?

 熊本大学医学部には「柴三郎プログラム」という、学生のうちから医学・生命科学研究にも力を入れたい人のためのプログラムがあるんです。高校生から博士課程まで段階に応じてプログラムが準備されており、私は、学部生を対象にした「プレ柴三郎プログラム」に参加しました。そこで学部1年生だった私が紹介してもらえたのが、水野秀信特任准教授のラボだったんです。

 水野先生は、神経科学を専門にされています。動物の脳の中の神経細胞を、その動物が生きたまま直接観察するイメージング技術を用い、脳神経回路の形成メカニズムを解明する研究や、脳の病気で神経回路がどのように障害されるのかを明らかにし、病気の治療法や予防法の開発につなげる研究をされています。私が研究したいと思っていたALSを扱っているわけではなかったのですが、水野先生から「ぜひ挑戦してください」と言っていただき、1年生から水野研に通うようになりました。

マウスを使った研究でALSの病態解明に挑む

そして、4年生で2つの賞を受賞。この快挙につながったALSのご研究について教えてください。

 ALSは、脳や脊髄にある運動ニューロンが徐々に障害され、全身の筋肉を動かしにくくなっていく病気です。近年では、認知機能や行動面など、運動機能以外の神経系にもさまざまな影響が及ぶことがわかってきています。そこで私は、ALSにおける感覚系の神経回路に着目し、その発達にTDP-43というタンパク質の異常がどのような影響を与えるのかを研究しました。

 TDP-43は正常な細胞にも存在し、RNAの処理などに関わる重要なタンパク質です。しかしALSでは、本来存在する細胞の核から細胞質へ移動し、そこで異常な凝集体を形成することが知られています。多くのALS患者さんの神経細胞でこのようなTDP-43の異常がみられることから、ALSの病態に深く関わっていると考えられています。

 しかし、なぜTDP-43にこのような異常が生じるのか、また、それによって神経細胞がどのように障害されていくのかは、まだ十分に分かっていません。そこで私は、ALSにおける感覚系の神経回路に着目し、マウスにTDP-43の遺伝子を導入するとともに、蛍光タンパク質を使って神経細胞を光らせ、神経細胞の形態を観察しました。これにより、TDP-43の発現によって神経細胞にどのような変化が生じるのかを調べました。

これまで、川江さんのご研究でどんなことがわかったんですか。

 ALSの病態に関わることが知られているTDP-43について、その発現量を変えて神経細胞への影響を調べました。TDP-43の発現量が低い場合から高い場合まで比較したところ、発現量が多いほど神経細胞の発達への影響が大きくなることがわかりました。

 そのほかにも、神経細胞から延び、情報を伝える役割を持つ「軸索」という部分について、伸長が抑えられることや、神経細胞の枝分かれが少なくなることがわかりました。

 また初期の実験では、胎児の段階でTDP-43の遺伝子を導入していたため、生まれた時点からTDP-43が発現していることになります。しかし、胎児期からTDP-43が発現している状態は、一般的なALSの発症過程とは異なるため、実際のALSの病態をより反映した実験モデルにすることが課題でした。

 そこで、胎児の段階で遺伝子を導入しながらも、生後にTDP-43を発現させることができるモデルを作りました。このモデルでも、先ほどお話しした軸索の伸長が抑えられるなどの変化がみられました。

 このように、ALSの病態をより反映したモデルを作ることができたことで、今後、ALSの病態解明や治療法の研究に役立つ可能性があると考えています。

水野先生やラボメンバーに感謝! 将来も研究を続けたい

ポスター賞を受賞された時は、どんなお気持ちでしたか。

 この研究は自分一人でやったのではなく、水野研メンバーのエルビラ・アブジャノバさんと一緒に取り組んだものです。受賞した2つの賞は医学生が対象だったので私が受賞しましたが、ポスターの作成では、かなりの部分をエルビラさんが助けてくれたんです。彼女はこの研究で博士号を取得しました。

 発表では特に、使用した画像がとてもきれいだとほめてもらえました。これは、水野先生のイメージング技術があってこそだと思います。だから、エルビラさんと水野先生には本当に感謝しています。

 また、大会への参加を通して、研究内容をどう人に伝えるかも特に意識するようになりました。普段話している水野先生やラボのメンバーとは、この研究に関する知識が共有できているから意識していないのですが、この研究を初めて知る分野外の方に話すにはどうすればいいかに苦心しました。わかりやすく伝えるために、発表前に何度も確認しました。この経験も、今後役に立つと思っています。


【エルビラ博士課程卒業式の際の写真】

【水野研 集合写真】

今後の展望は

 来年から研修医として働くので、研究に大きく時間を割くことはできません。でも将来的には臨床と研究を両立させ、最終的にはALSの発症メカニズムの解明と治療法の開発ができたら、と思っています。「柴三郎プログラム」であれば、熊本大学病院で働きながら大学院生として研究にもしっかり携われます。または、研修医の間2年間と、その後の5年くらいはしっかりと臨床に携わって、そのあと大学院に入る道もあり、どうするかはまだ決まっていません。

 今後も研究に関わっていきたいと思っています。ただ、ALSを研究する場合でも、ほかの脳神経疾患を研究する場合でも、医師として研究に携わるのであれば、患者さんと直接接する臨床医としての経験はとても大切だと考えています。


【日本神経科学学会 ジュニア・インベスティゲーター・ポスター賞】

参考文献

Abzhanova E, Kawae Y(共筆頭著者), Mizuno Hir, Umemoto T, Halilibrahim Ciftci, Tsuboi M, Hirabayashi Y, Mizuno H.
ALS-associated protein TDP-43 disturbs the intracortical axonal projections in the sensory cortex.
Neuroscience Research 105079 (2026).

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