森や草原をどう管理すれば、災害を減らせるか
自然の力を、暮らしを守る力に変える
大学院先端科学研究部(工学系)
浅田 寛喜 特任助教
- 所属
インタビュー担当の健児くんです。
近年、激甚化する豪雨災害。そんな今、浅田寛喜特任助教が取り組むのは、森林や草原といった生態系が持つ防災の力を科学的に解き明かす「Eco-DRR(生態系を基盤とする防災・減災)」の研究です。民間企業での経験を経て大学に戻り、研究を社会につなげようと、起業も構想している浅田先生にお話を伺いました!

![]() 浅田 寛喜 特任助教 |
私が主に取り組んでいるのは、土砂災害と植生の管理に関する研究です。森林や草原をどう管理すれば、土砂災害のリスクを下げられるのかを調べています。専門的には「Eco-DRR」といって、生態系がもともと持っている機能を生かして、防災や減災につなげようという考え方です。
一番分かりやすい例だと、東南アジアのマングローブ林ですね。マングローブが海岸に生えている地域では、津波の被害がかなり低減されたという事例が報告されています。日本でも、家の周りに樹木帯を配置することで土石流を受け止めたり、川の横にある樹林帯が洪水の時に流木や土砂をキャッチして被害を小さくしたりします。
私の研究でも、植物の根っこが土をぎゅっと掴んで山崩れを防ぐ力を、どう管理すれば高められるかを解き明かそうとしているんです。ただ、木が生えていればいいということではなくて、根の量や強さは森林の状態や管理の仕方によって変わります。だから、どう管理すればその機能を生かせるのか、そこをきちんと明らかにしたいと思っています。
![]() 森林の土壌が有する強度を測定するための現地試験の様子 |
大きなきっかけは、2017年の九州北部豪雨です。福岡県の朝倉地域などで、多くの斜面崩壊が起きました。そのとき現場では、「間伐されている森林と、されていない森林では崩れ方が違うんじゃないか」といった話があったんです。でも、本当に森林管理が効いているのか。それとも雨の量や地形が原因なのか。そこは、きちんと調べないと分かりません。現場で言われていることを、学術的に、定量的に確かめてみようと思ったのが、研究のスタートでした。
まず、樹齢が若いほど崩壊確率が高くなる傾向が見えました。植えてから10年に満たない「幼齢林」は崩壊が起きやすく、森林が成長するにつれて確率が下がります。また、間伐された森林は斜面崩壊のリスクが小さいと現場では経験的に言われていましたが、それを検証した研究は多くありませんでした。理由の一つは、樹木の密度を広い範囲で調べる手法がなかったことです。近年、ドローンや飛行機からレーザーを当てて樹木の高さや密度を測る「航空レーザー測量」が使えるようになり、アジア航測株式会社との共同研究で森林管理の情報とあわせて分析したところ、間伐が崩壊リスクを下げる有効な手法だと確かめられました。これが一番大きな研究成果だと思っています。
![]() 湿地の維持管理を目的として草刈りも行っている |
はい。平成24年の九州北部豪雨のデータを解析すると、斜面が崩れる確率自体は、草原の方が森林より高い傾向がありました。ただ、崩れた後の面積や土砂の量は草原の方が小さく、流木も発生しません。だから私自身は、『崩れる確率』だけでなく、『崩れたとき、どれくらいの規模になるのか』という二つの視点でリスクを見ることが大事なんじゃないかと思っています。そうして見ると、草原にも減災の面で役割があることが分かってきます。
阿蘇の草原は、野焼きや放牧、採草など、人が手を入れることで維持されてきた場所です。管理の仕方が変われば、生えてくる植物も変わります。植物が変われば、根の量や強さも変わる。では、それが斜面崩壊にどう影響するのか、というのを今調べています。現在進めている株式会社シンク・ネイチャーとの共同研究では、生物多様性について蓄積されてきた知見も生かしています。
日本全国では、この100年ほどで草原の90%近くが失われ、阿蘇でも50%近くが失われています。草原にしか生息・生育できない貴重な動植物もいるので、維持保全は必要だと考えています。放牧地や採草地としての産業的な役割もあるため、畜産農家や国定公園を管理する環境省とも協議しながら、防災的な価値を提示していきたいと思っています。
![]() 河川の魚類相を把握するための魚類調査も実施 |
修士課程を終えたあと、建設コンサルタントの会社で3年間働いたんです。そこで強く感じたのは、現場ではまず事業が決まっていて、その中で環境へのマイナスをどこまで小さくできるかを考える場面が多いということです。もちろん大切な仕事ですが、私は次第に、マイナスを減らすだけでなく、環境をプラスにできる方法を考えたいと思うようになりました。
それに、民間企業で働いたからこそ、研究でないとできないこともあると感じました。私が大事にしているのは、『研究のための研究』にしないことです。研究成果が社会にどう影響するのか、そこまで考えたい。例えば、この森にはこういう機能があるから残した方がいいとか、こう管理した方がいいとか。研究で分かったことを、地域づくりや政策の中で実際に使えるものにしていく。それが、研究を続ける一番のモチベーションになっています。
山や草原だけでなく、都市の水害対策にも関わっています。『雨庭(あめにわ)』は、屋根などに降った雨をすぐ下水に流すのではなく、庭や緑地に一度ためて、少しずつ地面に浸透させる仕組みです。雨水を一か所に集めず、まちの中で分散して受け止めようという考え方ですね。例えば浸水する水位を10~15cmでも下げることができれば、車が浸水するリスクを減らせる可能性があります。学生や、恩師でもある大学院先端科学研究部の皆川朋子教授ともシミュレーションをしながら、その効果を調べています。
まず、自分が生まれ育った地域がどんなところなのかを知ってほしいですね。それから、いろいろな地域に旅行してほしいです。旅行は「楽しかった」で終わってもいいんです。でも、もう一歩だけ、「なぜここに温泉があるんだろう」「この産業はどうやって地域に根付いたんだろう」と考えてみると、見え方が変わります。自分の地域でも旅先でも、「なぜだろう」と興味を持って調べてみる。そういう経験は、研究者になるかどうかに関係なく、社会に出てからも役に立つと思っています。