楽しくないと研究は続かない。
好奇心から始まる脳と心の探究
大学院生命科学研究部
牧之段 学 教授
- 所属
インタビュー担当の健児くんです。
脳の細胞の研究から自閉スペクトラム症の要因分析、そしてAI(人工知能)を使ったデータ解析。分野を越えながら、脳と心の謎に挑み続けているのが牧之段学教授です。好奇心を原動力に世界最先端の研究に挑む牧之段教授に、研究の楽しさと未来への展望を伺いました。

![]() 牧之段 学 教授 |
「オリゴデンドロサイト(希突起膠細胞)」という、脳の中で神経細胞のネットワークを支える細胞に注目しています。この細胞は神経の枝に「髄鞘(ミエリン)」というカバーを作り、電気信号を速く伝える役割を担っています。マウスの研究では、幼少期のたった2週間、ひとりぼっちで過ごすだけで、前頭前野という場所の髄鞘が薄くなり、社会性が損なわれることを発見しました。一度損なわれると、後で仲間と過ごしてもなかなか回復しません。この「臨界期」と呼ばれる時期に脳で何が起きているのかを解明し、心の病気の理解につなげようとしています。
精神医学では、症状から診断することが基本でした。しかし、それだけでは見えてこないこともあります。今は、血液やMRI、脳波など、患者さん一人から得られる情報は、以前とは比べものにならないほど増えています。そこで、「多階層研究」を取り入れました。例えば、自閉スペクトラム症の方の血液細胞を調べると、脳の神経回路を整える「刈り込み(プルーニング)」という機能がうまくいっていない可能性が見つかりましたが、同じ人たちに紐づくMRIや脳波の情報と統合して実際に脳がどのような影響を受けているのか、などを調べています。それらの解析には機械学習(AI)を用いています。AIは脳などの複雑な仕組みを解き明かすためには強力なツールなんです。
ただ、AIが「こんな特徴があります」と教えてくれても、実際に生じている現象なのかは分からないので、そこから先は人が考え、確かめる必要があります。私はAIで見つかった手がかりを、iPS細胞やマウスを使った実験で一つずつ検証しています。データから仮説を見つけ、実験で確かめる。その繰り返しが、本当の発見につながると考えています。
「人の心って、どこにあるんだろう」。そんな疑問から、中学生の頃、脳と精神の関係について書かれた本を読んだんです。当然「心は脳がつくる」と思っていましたが、その本には「心臓もこころを生み出している」という考え方が書かれていて、大きな衝撃を受けました。
それからは脳科学の本を夢中で読むようになりました。脳の中で何が起きているのか、人はなぜ考えたり感じたりできるのか。知れば知るほど分からないことが増えていって、その面白さに引き込まれていきました。振り返ると、研究者としての原点は、その頃の「知りたい」という気持ちだったのだと思います。
米国留学していた頃、指導教員から言われた言葉が今でも忘れられません。「基礎研究なら、針の穴を地球の裏側まで通すくらい、一つのことを徹底的に掘り下げなさい」という意味の言葉でした。その考え方は、今の研究にも大きく影響しています。
一方、臨床研究では最初から狭く絞り込むのではなく、できるだけ広くデータを集め、何が見えてくるのかを探ります。そして、糸口が見つかったら、今度はそこを徹底的に掘り下げる。「広く探す」と、「深く掘る」を行き来することが、私の研究スタイルになっています。
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何より「楽しくないと続かない」ということです。私はもともと2つのものを比べるのが大好きで、子供の頃は顕微鏡でハエやミツバチのお尻を覗いては、その微妙な違いを見つけるのが喜びでした。理屈抜きに「知りたい」という内発的な欲求に基づく「キュリオシティ・ドリブン(好奇心駆動)」を大切にしたいと思っています。妻には、いちいち実験のような比較ばかりしてうっとうしいと言われていますが(笑)。
研究には、地球の反対側にいる見ず知らずの人と共通言語である英語を使って、自分の発見をぶつけ合う「グローバルな遊び」のような側面もあります。このささやかな遊びの感覚こそが、ときにしんどい実験を支えるエネルギーになっています。
![]() 熊本県発達障がい医療センターのスタッフと共に |
熊本県発達障がい医療センターは、自閉スペクトラム症やADHD、学習障がい(LD)などに関する専門医療を担う拠点です。熊本県内の医療機関との連携や専門人材の育成など、身近な地域で診療を受けられる体制づくりを進めています。また、家族や本人の知識を深める情報発信も行っており、みんなが前向きになれるような社会を目指しています。
「孤独」を解消するためのAIロボットを、スタートアップ企業と共同開発しています。児童虐待の背景にある親の孤独、産後うつのお母さんの孤独、そして認知症の方の孤独。これらはすべて、心身の健康に悪影響を与えます。特に認知症の原因の5%は孤独だというデータもあります。頑張っても誰にも評価されない、答え合わせができない辛さを、安定したパートナーであるAIロボットが癒やしてあげることで、誰もが孤独を感じずに済む社会を創りたい。これは熊本大学が採択された「J-PEAKS(地域中核・特色ある研究大学強化促進事業)」プロジェクトの一環として、大学を挙げて取り組んでいるミッションでもあるんです。
![]() 開発に関わっているAIロボット「COCOMO」 |
Ludens公式サイト
https://ludensai.com/ja/
研究は、患者さんの役に立つという社会的使命はもちろんですが、それ以上に「面白いからやる」という遊び心があっていいと思っています。そこから生まれる心の余裕は、きっと新しい発見につながります。
熊本大学には最先端の設備があり、十分に好奇心を満たしてくれる環境があります。皆さんが感じている「なぜ?」と思う好奇心、あるいはただ「比べてみたい!」という好奇心が誰も見たことのない発見につながるかもしれませんね。