「衝突」「爆発」「衝撃」を解き明かす
空と宇宙の安全を支え、研究を社会へつなぐ
大学院先端科学研究部 産業基盤部門 機械システム設計分野 宇宙衝撃工学研究室
波多 英寛 助教
- 所属
衝突――高温の航空機エンジンで起こる異物衝突を再現
航空機エンジンの内部では、ブレード(回転翼)が高温の環境で高速回転しています。そこへ小石や部品片などの異物が入り込むと、ブレードや周囲の部材が損傷するおそれがあります。材料は温度によって強さや壊れ方が変わるため、室温での試験だけでは、実際のエンジン内部で起こる現象を十分に捉えられません。
そこで、試験対象を数百度まで加熱し、航空機エンジン内部の高温環境を模擬したうえで、異物を高速で衝突させます。どの程度の衝撃で材料が割れるのか、損傷が周囲へどのように広がるのか、壊れにくくするにはどうすればよいのかを調べ、より安全なエンジン設計に役立てています。
スーパーの鶏肉で、バードストライクを確かめる
バードストライク試験では、鳥の代用品としてゼラチンが使われることがあります。しかし、実際の鳥には骨があり、やわらかい部分だけの模型とは、衝突したときの力の伝わり方や材料の壊れ方が異なる可能性があります。
本物の鳥を試験に使うことは難しいため、スーパーで購入できる鶏肉を代用品として利用しました。質量や形などの条件を整えて高速で衝突させ、骨を含む場合に変形や損傷がどのように変わるかを検証します。身近な材料を工夫して使う発想から始まった研究ですが、その成果を知った企業から試験の依頼を受けるようになりました。
![]() バードストライク試験などに使う衝突試験装置。試験体を高速で飛ばし、航空機材料への影響を調べる。 |
爆発――人工衛星が壊れ、破片が飛び散る現象を予測
宇宙空間では、人工衛星に搭載されたバッテリーが破裂するなどして、衛星が爆発・破砕することがあります。生じた破片はスペースデブリ(宇宙ごみ)となり、別の人工衛星や宇宙機に衝突する危険があります。将来の被害を予測するには、衛星がどのように壊れ、どのような破片が、どの方向へ、どの程度の速さで飛び散るかを把握しなければなりません。
熊本大学の爆発実験施設で模擬衛星やバッテリーを用いた実験を行い、破片の大きさ、形、質量、飛散の様子を調べています。得られたデータをもとに、人工衛星の爆発破砕モデルを開発します。これは、バッテリーの破裂を起点として衛星が破砕される現象を数値的に表し、宇宙ごみの発生や衝突リスクを予測するためのモデルです。
![]() バッテリーの破裂実験で生じた破片。破片の大きさや形、飛散の特徴を分析し、人工衛星の爆発破砕モデルに反映する。 |
![]() 模擬衛星を爆破した後の破片。部材ごとに分類し、どの部分がどのように壊れたかを調べる。 |
「はやぶさ2」を、衝突装置の破片から守る
「はやぶさ2」は、小惑星の表面に人工的なクレーターをつくるため、爆薬を搭載した衝突装置を使用しました。装置が小惑星に向かって移動した後、爆薬が爆発することで高速の衝突体を打ち出し、小惑星表面を掘り起こします。
このとき危険になるのが、爆発によって衝突装置そのものから発生する破片です。破片が「はやぶさ2」に当たれば、機体や観測装置が損傷する可能性があります。そこで、装置からどのような破片が発生し、どの方向へ飛び、探査機に当たる危険がどの程度あるのかを実験と解析によって予測しました。宇宙でやり直しのきかないミッションを、地上での実験とリスク解析によって支える研究です。
衝撃――打ち上げと分離の一瞬に、衛星を壊さないために
衝突や爆発が起こると、一瞬の大きな力が振動となって構造物の内部を伝わります。これが「衝撃」です。人工衛星やロケットは、地上で完成しただけでは宇宙へ行けません。ロケットによる打ち上げ時や、機体・衛星を切り離す分離時には、非常に強い衝撃が発生します。内部の電子機器や観測装置がその衝撃に耐えられなければ、宇宙に到着する前に故障してしまいます。
そのため、衛星やロケットに実際の打ち上げ・分離に近い衝撃を与え、機器が正常に動作することを確認する衝撃試験を行います。また、衝撃が機体のどこを通り、どの部分で大きくなるのかを調べ、衝撃を吸収・分散させて小さくする研究にも取り組んでいます。安全性を確認する試験と、そもそもの衝撃を低減する研究の両方が、宇宙機の信頼性を高めます。
![]() 衝撃低減研究のためにJAXAから借用しているSDS-4(小型実証衛星4号機)のSTM(構造・熱モデル)。 打ち上げ時や分離時の衝撃が衛星にどのように伝わるかを調べ、衝撃を小さくする研究に用いている。 |
試験の相談から、株式会社「空宙技研」の設立へ
近年、小型衛星の開発が盛んになり、「打ち上げ時や分離時の衝撃に耐えられるか試験してほしい」という相談が増えました。衝撃試験は、衛星をロケットに搭載するために欠かせませんが、専門の設備や技術が必要です。こうした依頼に継続的に応えるため、株式会社「空宙技研」を設立しました。
企業や衛星開発者から依頼された試験は会社で行い、衝撃を低減する方法や新しい試験技術の研究開発は大学で進めています。製品を直接つくる仕事ではなくても、試験がなければ安全性を証明できません。ものづくりの表舞台からは見えにくい、しかし欠かすことのできない部分を支えることが、会社の役割です。
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九州の技術と人をつなぐ――九州航空宇宙開発推進協議会
九州航空宇宙開発推進協議会(九航協)は、自治体、大学、企業などが連携し、九州の航空宇宙産業を育てる団体です。私は幹事長として、共同調査や研究、企業向けの勉強会、宇宙ビジネス交流会などに取り組んでいます。
宇宙産業は、ロケットや人工衛星をつくる企業だけで成り立つものではありません。材料、機械加工、電子機器、情報通信、データ活用など、さまざまな分野の技術が必要です。地域の企業が持つ技術と、宇宙分野が抱える課題を結び付けることで、新しい製品やサービス、仕事が生まれます。研究者として技術を深めるだけでなく、異なる立場の人々をつなぐことも、宇宙開発を支える大切な活動です。
宇宙分野の活動が活発になり、地域の産業が成長すれば、企業から新しい課題や共同研究の相談が大学へ持ち込まれます。大学で生まれた研究成果や人材が再び企業や地域へ還元され、さらに新しい技術や仕事につながっていく。私が目指しているのは、企業、大学、自治体が互いに力を高め合う、このような好循環です。宇宙産業に関わる人が増え、企業が元気になり、大学の研究も発展することで、地域全体がより豊かになる未来を描いています。
![]() 北九州宇宙ビジネスネットワークの勉強会で講演する波多助教 |
![]() 課題解決EXPO宇宙ものづくり産業セミナーで登壇する波多助教 |
小さい頃に見た「ガンダム」の世界観がきっかけです。スペースコロニーや宇宙で動くロボット、メカに興味を持ち、「自分でもつくってみたい」と思いました。中学生の頃には、宇宙分野の博士になりたいと考えていました。最初は純粋な憧れでしたが、学びを深める中で、今は空と宇宙の安全を支える研究へつながっています。
高校生へのメッセージ
ロケットや人工衛星、航空機などの完成品は目立ちますが、それらは一つの専門分野だけでできているわけではありません。多くの知識や技術、そして安全性を確認する試験が組み合わさって、初めて安心して使えるものになります。私が研究する「衝突」「爆発」「衝撃」も、そうした支える技術の一つです。
大学には、目立たなくても社会に欠かせない「ニッチだけれど必要な研究」がたくさんあります。一方で、研究の始まりは「面白そう」「なぜだろう」という好奇心や、身近なものを使った小さなひらめきかもしれません。宇宙への入り口も、ロケットをつくることだけではありません。材料、機械、情報、ビジネスなど、さまざまな関わり方があります。
高校生の皆さんには、大学のWebサイトや広報誌、オープンキャンパスを、宝探しをするような気持ちで見てほしいと思います。自分の興味を引く研究や人との出会いが、将来の自分を想像するきっかけになることを願っています。
![]() 第7回ものづくり日本大賞特別賞の賞状 |