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    ICTとメタ認知で育む、一人ひとりが主役の授業

「学び方」を変えることが、未来をつくる
ICTとメタ認知で育む、一人ひとりが主役の授業

熊本大学大学院教育学研究科

前田 康裕 特任教授

研究
インタビュー担当

インタビュー担当の健児くんです。
社会の変化が激しい時代、学校には「教えてもらう学び」から「自分で学ぶ力」への転換が求められています。熊本大学大学院教育学研究科の前田康裕特任教授は、教育現場での豊富な実践と研究を通して、ICTを「学びを支える道具」として活用しながら、子ども一人ひとりが主体的に学ぶ授業づくりに取り組んできました。その研究の背景と、これからの教育に向けた展望を紹介します。

「習う」から「学ぶ」へ。自分の学びを自分でコントロールする力。


前田 康裕 特任教授

先生の研究のテーマを教えてください。

わかりやすく言うと、授業改善の研究です。ICTそのものの研究というよりも、授業を改善していくためにICTが非常に役に立つ、という話なんです。社会の変化がすごく激しい時代なので、「先生がいないと勉強できない」という状態は良くない。コロナで学校が休校になったとき、自分で何をしていいかわからない子がたくさん出てきて、それを痛切に感じました。

たとえば先生が「わかる人?」と聞いて手を挙げた子が発表し、「わかりましたか?」「はい」で授業が進んでいく。これが日本中で毎日行われているんですね。でも「わかった」と言っている子の中には、本当はわかっていない子がたくさんいる。わかった気になっているだけです。その子たちには自分に合った学習の仕方があるはずなんです。

一人ひとりが違う、ということですね。

そうです。私は小学生の頃、社会科が大の苦手でした。大河ドラマを見ていなかったので、「幕府」と言われてもピンとこない。でも隣にいた子は大河ドラマを見まくっていたから、先生の話がすごく楽しいわけですよ。何かを「理解」するには、一人ひとりの知識や経験がとても大事になる。知識だけでなく、「経験」があって初めてつながるんです。

高校受験のとき、歴史漫画を読んで初めて歴史が面白くなりました。漫画で歴史を読むとスッと理解できました。私は文字よりビジュアルで捉える方が得意だったんですね。自分の得意・不得意を知る、それが「メタ認知(自分の考え方を客観的に知ること)」の第一歩です。

「メタ認知」を高めるには 「振り返り」が重要です。単なる感想ではなく、「何に気づいたか」「次はどうするか」を言葉にすること。鏡で自分の姿を見るように、自分の学びを客観的に観察するのです。これを繰り返すと、自分に合った「学習方略(学びの作戦)」が立てられるようになります。この自分で自分の学習を調整する「自己調整学習」の力が、これからの時代には不可欠なんです。


前田先生が執筆された「学習方略」の本。
「まんが」を活用することで理解しやすくなっている。なお、まんが部分も前田先生によるもの。

ICTの活用が子どもたちの「メタ認知」を加速する

熊本市のICT導入にも大きく関わってこられました。ICTと教育を結びつけるきっかけは?

1999年に私費でサンフランシスコへ1週間の研修に行きました。ICTを使ったプロジェクト学習の研修でした。アメリカの先生たちと一緒に学んで、「これが学習なんだ」と授業観が180度変わりましたね。それまでは教科書を覚えることが勉強だと思い込んでいた。戻ってきてから熊本大学教育学部附属小学校で総合的な学習の時間にプロジェクト学習を取り入れ、そこでICTが有効な手段として機能することを実感したんです。

従来の授業と、どんな違いが生まれるのでしょうか。

ICTは自分の考えを「共有」し、学びを「集積」し、成長を「見える化」するための道具です。少人数で話し合ったり、タブレットに自分の考えを書いて共有したりすると、全員が学びに参加できます。また、友達の振り返りを見て刺激を受け、自分の過去の作品と比べて成長を実感することもできます。自分で考え、友だちと対話し、振り返って「次はどうするか」を考える。ICTはメタ認知を強力にサポートし、自己調整学習力も育ちます。

ICT活用というと、タブレットを使うこと自体が目的になりがちですが、大切なのは授業をどう改善するか。子どもが主体的に学ぶためにICTがとても役立つ。だから使う、という順番なんです。

先生も共に学ぶ。熊本大学から授業を「アップデート」したい

全国で先生たちへの研修や授業研究のサポートもされているそうですね。

多くの学校で「端末は入ったけれど、授業が変わらない」という悩みを聞きます。そこで私は、良い授業の映像を短くまとめて共有したり、先生同士が対話しながら学ぶ研修の形そのものを変えたりしています。

従来の校内研修は、数人が研究授業をして最後に「偉い先生」が来て助言してまとめる、という形が多い。それを繰り返しても授業は変わりません。私がやっているのは、先生に自分の課題を決めてもらい、年度末に実践報告会で語る、というやり方です。研究授業を見た後の研修でも、前半は全員がタブレットで授業の良かった点や改善点を書き出し、後半は見た授業を自分の教科に引き寄せて「一般化」する、ということをしています。これを「具体と抽象の往還」と呼んでおり、これをやることで、学びを自分の授業に取り入れることができるようになるんです。


熊本市で行われた「くまもとエデュケーションウィーク」でのセミナーの様子

熊本大学で主催するオンラインの研修会も毎回人気だと聞きました。

月1回、土曜日の午前中に無料でやっているのに毎回キャンセル待ちが出るほどです。実は、「個別最適な学び」や「自己調整学習」という言葉が文部科学省から出てきても、現場の先生はどう実践すればいいかわからないことも多いんです。そこで、自分の授業を語ったり、他の人の工夫を聞いたりして、考える。その積み重ねが、新しい授業を生み出し、考え方をアップデートしていくことにつながります。

そのために、いい授業をしている先生の動画を撮影・編集して熊大のウェブサイトに蓄積するプロジェクトも実施しています。「こんな授業があるんだ」というイメージを持つことは、新たな授業の第一歩になります。そのきっかけを熊大から発信できるのは嬉しいことですね。


セミナーには毎回多くの先生方が訪れる

これから大学や研究の道を目指す人へ、メッセージをお願いします!

「学び」とは、自ら意味づけ、価値づけていく一生続くプロセスです。私自身、30代後半で「なぜ授業がうまくいくのか」を知りたくて大学院へ行きました。自分の問いを大切にし、変化を恐れずに挑戦してほしいです。熊本大学には、そのための刺激的な出会いがたくさん待っています。

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