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    RNAの構造から、神経変性疾患に挑む

「これを見ているのは、世界で自分ひとり」
RNAの構造から、神経変性疾患に挑む

発生医学研究所 発生制御部門 ゲノム神経学

矢吹 悌 准教授

研究
インタビュー担当

インタビュー担当の健児くんです。
パーキンソン病やアルツハイマー病など、いまだ根本的な治療法が確立していない神経変性疾患。その発症の仕組みに、RNAの構造という新しい視点から迫り、日本医療研究開発機構(AMED)理事長賞を受賞したのが、熊本大学発生医学研究所の矢吹悌准教授です。矢吹准教授に、研究の面白さや今後の研究について伺いました!

RNAの不思議な構造から、神経の病気を解き明かす

「日本医療研究開発機構(AMED)理事長賞」受賞おめでとうございます!
今回受賞された研究の内容を教えてください。

一般的に、遺伝情報というとDNAが注目されがちですが、RNAも細胞の中でいろいろな構造を作っています。その構造が変わることで、細胞の働き自体が変わることが分かってきました。私たちは、そのRNAの構造が特に神経細胞でどんな意味を持つのかを調べているんです。

DNAといえば二重らせん構造が有名ですが、RNAは一般に一本鎖の分子として知られています。ただ近年、RNAも細胞内で複雑な立体構造をとることが分かってきました。実は「グアニン四重鎖(G4)」という特殊な高次構造があるんです。今回受賞した「RNA高次構造による神経変性機構の解明と治療法開発への取組」では、このG4構造が、パーキンソン病などの原因となるタンパク質の塊を作る「足場」になっていることを突き止めました。この構造を狙うことで、神経変性疾患が発症する前の「未病」の段階で防げるのではないかと考えています。


矢吹 悌 准教授

G4構造とは、どんなものですか。

DNAの二重らせん構造は、教科書でもよく出てきますよね。G4構造は、それとは全く違う立体構造で、グアニンという塩基が4つ集まってできる、とても特徴的な形をしています。

この構造は、以前から細胞の中に存在することは知られていたのですが、何をしているのかはよく分かっていませんでした。特にRNAのG4構造については、研究自体がまだ新しい分野です。私たちは、このRNAのG4構造が、神経細胞の中でタンパク質の振る舞いに影響を与えているのではないかと考えました。


RNA高次構造「グアニン四重鎖(G4)」のイメージ図

パーキンソン病などとどうつながるのでしょうか。

パーキンソン病やレビー小体型認知症では、αシヌクレインというタンパク質が異常に集まり、細胞の中にたまることが知られています。ただ、その「最初のきっかけ」が何なのかは、長い間よく分かっていませんでした。

今回の研究では、このαシヌクレインが、RNAのG4構造に特異的に結合し、その結果として凝集が始まることを明らかにしました。これは、タンパク質だけを見ていても分からなかった現象です。RNAの構造という視点を入れたことで、神経変性疾患の新しい理解につながったと考えています。


「G4集積」によるシヌクレイノパチー発症機序の図

基礎研究から、予防や診断の可能性へ

将来、どんな応用が考えられるのでしょうか?

まず一つは、診断への応用です。現在、神経変性疾患は、症状がはっきり出てから診断されることがほとんどです。ただ、その時点では、神経の変化がかなり進んでいるケースも多いんです。

今回の研究から、血液中に含まれるRNAのG4構造を測定することで、神経変性が起きている状態を反映できる可能性が見えてきました。将来的には「病気になる前の変化」を捉える診断につながるかもしれません。発症してから治すのではなく、できるだけ早い段階で変化を見つけ、進行を防ぐ。神経変性疾患では、特に重要な考え方だと思っています。

安全性の高いサプリメント成分を使って、マウスモデルで発症を予防できることも示しました。もちろん、すぐに人に使えるわけではありませんが、「RNAの構造を標的にする」という方向性は、予防や治療の新しい選択肢になる可能性があります。

今後への期待も受賞につながったんですね。

この賞は、私自身が応募したわけではなく、AMEDの関係者の方々が分野を横断して検討する中で選んでいただいたと聞いています。単に成果が出たというよりも、「これからの発展が期待される研究」に対して与えられるものだと受け止めています。

総理官邸での表彰式に出席したのですが、正直、研究者を続けていなければ経験できなかった場だと思います。期待に応えるためにも、今回の成果を一過性のものにせず、神経変性疾患全体の理解につながる研究へと発展させていきたいですね。


授賞式にて、日本医療研究開発機構(AMED)理事長と

「自分がやれること」の見つけ方と、研究の楽しさ

この研究を始めたきっかけは?

身近な人ががんで亡くなったこともあり、高校時代は「がんを治す薬を作りたい」と思っていました。そのため薬学部に進学したのですが、研究室配属の縁で神経の研究を始めることになりました。調べていくうちに、脳の病気はまだ治る薬がほとんどない、非常に難しい分野だと知ったんです。社会に貢献するために「自分にできることがあるかもしれない」という気持ちで続けています。

基礎研究では、成果が出るまでに長い時間がかかると思いますが、続けるモチベーションはどこにありますか?

何か新しいことを発見した瞬間、その現象を見ているのは「世界で自分ひとりだけ」なんですね。論文にする前ですから、世界中の誰も知らないことを自分だけが知っている。その瞬間は本当に楽しくて、興奮します。そのワクワクがあるからこそ、人に伝えるための地道な検証作業も、面白さを失わずに続けていけるのだと思います。

正直、失敗や条件検討の繰り返しで、研究は楽しいことばかりではありません。でも私は負けず嫌いなところがあって、何とか自分の説を立証してやりたいという「負けん気」でやってきました。それと、私が所属している発生医学研究所はチーム力がすごいんです。困ったらすぐに信頼できる仲間に相談し、協力してもらえる。この温かい環境があるからこそ、一人では難しい壁も突破できています。

この記事を読んでいる高校生や一般の方へメッセージをお願いします。

最初から「これがやりたい」と決まっていなくても大丈夫だと思います。私自身も、最初は漠然と「人の役に立つ研究がしたい」という思いからスタートしました。

「自分のやりたいこと」と「社会が求めていること」を重ね合わせて考えていくと、その中に「自分ができること」が見えてきます。研究者という道も、その一つの選択肢ではないでしょうか。

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