- インタビュー担当
インタビュー担当の健児くんです。
2025年12月発行の「熊大通信94号」特集Ⅱでは、薬学部のアントレプレナーシップ教育プログラム「iHOPE」が紹介されています。ご登場いただいている井上浄先生や弘津辰徳先生は、熊大通信に掲載したほかにもたくさん興味深いお話をしてくださいましたので、ここでお伝えします!
失敗を恐れずに価値を生み出すマインド
アントレプレナーシップ
アントレプレナーシップとはなにか、そしてiHOPEはどんなプログラムなのか教えてください。
井上 アントレプレナーシップは起業家精神と日本語訳されますが、何も会社を立ち上げるためのものというわけではありません。高い志と倫理観に基づき失敗を恐れずに踏み出し、新たな価値を創造して行くマインドがアントレプレナーシップ。薬学部で、そういったマインドを持つ人材を育成するためのプログラムがiHOPEです。
正式名がInnovative Healthcare-Oriented Program for
Entrepreneur、この頭文字をとってiHOPEと呼んでいます。開講したのは2017年。薬学部の学部1年生を対象にした、ジェネリックスキル概論1部の中の約5コマの授業です。まずは座学で、とにかくおもしろいと思うことがあるならやってみる、そんなマインドの醸成から始めます。そしてワークショップのほか、最後は学生たちにプレゼンテーションも行ってもらいます。
2021年には、大学院生を対象としたiHOPE
NEXTも開講。ここでは座学に加え、自分のアイデアをもとにして、「熊本テックプランター」など、ベンチャー企業を立ち上げていくような創業支援プログラムにエントリーしたり、修士、博士の学生から申請できる若手研究者向けの研究費「リバネス研究費」に挑戦し、研究費を獲得していくような実践的な学びをしてもらっています。
理系研究者集団だからできる
ディープテックベンチャー支援
iHOPE立ち上げにかかわり、以来ずっと講師をされている井上教授はリバネスという企業の代表取締役社長でいらっしゃいます。どんな会社なんですか。
井上 リバネスは2002年に15人の理系大学院生が集まって創業したベンチャー企業で、私はファウンダーの一人。最初は、研究のおもしろさを次世代に伝える出前実験教室という教育事業から始まり、新しい研究の仕組みをつくるべく若手研究者の研究支援などを行うようになり、そして、そこから研究成果を社会実装し創業するベンチャー支援を事業として展開してきました。
まずはとにかく子どもたちの理科離れをなんとかしようと、実験のおもしろさを伝えたいと出前実験教室を始めたんです。一方で、私たち自身が学生だったので、若手研究者が持ついろいろな課題もわかっていました。学生の間は普通、教授から言われたことを研究し学んでいきますが、実は、こっそりとやっていたような研究とか実験があって、それがのちに研究者として成長していく種になったりするんです。これからの若手研究者にもそういう将来の種になるような研究をどんどんしてほしいと思ったんですが、そういう研究にはお金がつきません。だから私たちリバネスは、最初に出た利益で「リバネス研究費」という、大学院生向けの研究費をつくり配ってきました。企業も巻き込みながら、これまでに配った研究費は総額2億円くらいにはなってきました。
さらに、各地の大学で研究者に会う中で、研究成果を社会実装するにはどうすればいいか、という相談も受けるようになっていきました。そこで、23年間、理系の研究者集団でリバネスを経営し、様々な活動をしてきた私たちが持つノウハウを還元できる、であれば、世の中の課題を解決するディープテックベンチャーの創業について伴走支援も行っていこう、となったわけです。
ベンチャー企業であるリバネス自身が、アントレプレナーを支援しているわけですね。
井上 スタートアップがどんどん出てくるアメリカのような国がある一方で、日本からスタートアップやベンチャーは生まれないと言われてきました。でも実は、大学を見るとすごい技術がたくさんあるんです。ただ、私たち特に理系では、大学で起業の仕方や事業の起こし方なんて1ミリも習いません。
そこで、私たちは、それをサポートしていく必要があると考えて、テックプランターというテクノロジーのプランターを作ったんです。全国から人や技術が集まって来るプラットフォームを作り、そこでスタートアップやベンチャーの立ち上げを支援しようとなりました。実は、テックプランター事業のスタート前、ミドリムシで知られる東京大学発バイオベンチャー企業・ユーグレナ(2005設立)の立ち上げからリバネスのメンバーが伴走。そこから東証一部上場までリバネスがずっとサポートしました。この再現性を取りに行こう、これがテックプランターの始まりです。現在では東南アジアへも拡大し、現在は国内外トータルで5000チームを越えるプラットフォームになっています。
そして、2016年に始まったのが「熊本テックプランター」なんですね。
井上 そうです。リバネスと熊本大学、そして熊本県、株式会社肥後銀行、一般社団法人熊本県工業連合会の5者で組織する「熊本県次世代ベンチャー創出支援コンソーシアム」が運営しています。10年前、熊本で新しい産業が生まれるエコシステムを作ろうとスタートしました。
以来、世界を変える、社会をより良くする、そんな目的を果たすことができる様々な技術シーズをもって起業や新事業展開を志す方々が参加。始まって以降これまでに241チームがエントリーし20社のスタートアップが誕生しています。エントリーしたチームが調達した資金は総額で45億円。130名もの新たな雇用も創出しています。
リアルなアントレプレナーと会える
熊薬iHOPEで自分の可能性を広げよう
iHOPEで講師を務めている株式会社サイディンの弘津辰徳先生は、「熊本テックプラングランプリ」を受賞されていると伺いました。
弘津 2016年4月に会社登記をし、同年7月に出場した第一回熊本テックプランターでグランプリを受賞しました。その時のテーマは「シクロデキストリンを基盤分子とした医薬品および機能性食品の創製」。現在でもこのシクロデキストリンを柱とした事業を展開しています。医薬品研究開発事業のほか、機能性食品研究開発事業も行っていて、油っぽい料理などにかけることで身体を整える「調身料ドンマイン®」は商品化して販売しています。
井上教授が代表を務めるリバネスは、サイディン起業時からお世話になっていて、私の会社だけでなく、日本中にリバネスの伴走支援で起業した研究者がいるんです。そんな企業の方が講師をしてくれるiHOPEで、ぜひ多くの学生たちにアントレプレナーシップを醸成してほしいと思いますね。
弘津先生もiHOPEで教えていらっしゃるんですよね。
弘津 そうです。井上教授と一緒に登壇しています。学生たちに、自分が起業した経験を話すこともありますが、メインは、iHOPEにゲストとして来てくださるスタートアップやベンチャー企業の方、企業内で新規事業を手掛けている方などと学生をつなぐ役割。企業見学やインターンシップのお世話をしています。
最後に、読者へメッセージをお願いします。
井上 薬学部に進学する人は、薬剤師や創薬関連の職業を目指している人が多いと思います。薬学という言葉は、非常に専門性が高いように感じられるためか、卒業後は調剤薬局、病院、企業のMR、企業かアカデミアでの研究職、そのうちのどれを選ぶか、みたいに行き先が決まっちゃってるな、と勝手に思ってしまうこともあるんです。
ただ、同じように薬学部で学んだ私は、運がいいことにおもしろい仲間たちとリバネスを立ち上げることができ、薬学部出身者が進むような道以外のところで活動することになりました。ところがその場所で、とにかく自分が学んできたことがめちゃくちゃ生きてきたんです。研究者の話を聞くと、広く薬学で学んできた自分の知識の引き出しのどこかが開くんですよ。そしてそれを、社会実装や起業支援につなげていくことができています。これは、自分自身が研究者としてもいい領域に入ったと思いました。
薬学部出身者が本気を出せば、世界を変えられる。これは熊大通信でも話しましたが、薬学部で学んだからと薬剤師か創薬と道を決めずに、新しい職業を作る、薬局や病院、薬剤師の世界を変える、改革する、そんな可能性が自分にもあると思って学んでほしいと思います。それを学ぶ環境が、熊本大学薬学部にはあります。