キャンパス・分野・職位・年齢に捉われない! ゆるやかに、そして自由に人をつなぐKumadai-Hub

特集
インタビュー担当

 インタビュアーの健児くんです。
 今回は、去る12月1日(日)に開催された、熊本大学の任意組織Kumadai-Hubの巡回ポスター展に行ってきました。
 Kumadai-Hubってどんな組織なの?巡回ポスター展では何をやっているの? 興味津々で訪ねてみると、たくさん人が集まっていて、なんだかとっても楽しそうでしたよ!
 Kumadai-Hubについては、運営メンバーである大学院生の前田龍成さんと、大学院生命科学研究部の佐藤叔史助教に話を伺いました。ポスター展からは、発表した皆さんの中から、阿蘇市で中学教員をしている浅野琳香さんと、生命資源研究・支援センターの後藤裕樹准教授お二人を紹介します!

熊本大学任意組織Kumadai-hub
①「いい組織だから残したい」。学生主体の運営をリード~前田龍成さん

前田龍成さんは、医学教育部博士課程の2年生なんですね。

前田さん:はい、大学院生です。Kumadai-Hubには、設立初期から学生として活動に携わってきました。
 Kumadai-Hubは、2019年に、熊本大学の若手研究者の有志によって設立された組織です。活動目的は「あらゆる背景にとらわれない、自由な交流の場を作ること」。多くの場面でカテゴリー分けされた境界線を溶かし、様々なバックグラウンドを持つ人々が交わる接点を作りたいという設立者たちの想いが、組織の立ち上げの背景にあります。
 2023年度までは教職員の方々が主体となって運営されていましたが、2024年度からは学部生と大学院生が主体となり、教職員の皆さんと一緒に運営を継続して行っています。メインの活動は、異なる専門分野の人々が一堂に会し、互いの研究や活動を通して交流するパブリックイベントの「巡回ポスター展」を企画すること。また、熊本大学に関連する研究者の研究人生を切り取り紹介する「研究人図鑑」を毎週リリースしています。これらの活動は、Kumadai-Hubの紹介ページに掲載していますので、ぜひそちらもチェックして頂きたいです!

○Kumadai-Hubの紹介ページはこちら

今回の巡回ポスター展も、たくさんの方々が参加されていますね!

前田さん:4回目となる今年も、熊本大学内外から、多くの皆様に研究や活動をポスター発表して頂いています。回を追うごとに参加人数が増加。参加層も発表内容も、幅が広がり続けているんです。これまでに累計150演題以上のポスター発表、300人以上の皆様にご参加頂いています。
 第4回のテーマは「ヒト・モノ・ココロが繋がる」。今回のポスター展では、普段の生活の中では交わることのない人同士の「接点を創る」ことを意識しました。
 一例が、全国の幅広い若手研究者のネットワークを持つ「若手の会」の複数団体に参加依頼をしたこと。地方にある熊本大学では、出会う人の数や得られる情報が限られており、自身の思いや悩みを共有できる仲間を見つけることが難しい、という声が多くありました。実際に、若手の会に参加している人が少ない以前に、熊本大学では会を知らない人がほとんど。そのため、参加層として割合の高い若手研究者が、新しく仲間探しができるきっかけになってほしいと考えました。
 また、「博士課程」、「女性の研究キャリア」「留学」などのテーマに関する相談ブースを開設。例えば「留学」に関しては、多くの学生が、海外留学に漠然と興味があっても周囲に経験者がおらず、興味を抱くだけで終わる現状がありました。しかし実は、学生がいつもいる場所の隣にある建物やキャンパスには、多くの海外留学経験者がいます。そこで、大学内から経験者を招き、留学について知るだけでなく、近くの人に継続的に相談できる関係を築く機会を設けてみました。
ほかにも、立場や分野にかかわらず、学生と教職員が相互に対話できるきっかけになるように実施したのが、会場にいる研究者を幼少期の写真をもとに探す「Hubな人スタンプラリー企画」。ポスター発表の順番も、分野や年齢では固めずに、理系の間に文系を入れたり、教員の間に学生を入れたりすることで、「普段は接点がないけど、少し隣の発表が気になる」が生まれる種をまきました。

前田さんはなぜこの活動を続けているんですか?

前田さん:あまり深い理由はなく、良いと感じる取り組みを残していきたいからです。今までKumadai-Hubを通じて、多くの人の間に様々な縁が生まれる瞬間を目にしました。私自身も恩恵を受けた一人です。2024年度も、そのようなKumadai-Hubの存在が身近にあり続けてほしいと思い、メインの運営を引き受けました。職位や分野などという分かりやすい共通点以外に、「実は人がつながる要素がある」。その「実は」を大切にして、活動を続けていきたいと思っています!

➁人と人がつながる場所を創出してきたKumadai-Hub~佐藤叔史助教

次に、佐藤叔史助教に伺います。これまでのKumadai-Hubについて教えてください。

佐藤助教:これまでHubは、有志のコアメンバーによって牽引され、メンバーの総意のもとに多様な活動を展開してきました。コアメンバーは年々変化しており、今後も変わり続けることが予想されます。現在も活動は試行錯誤の段階ですが、この変化に対応できる柔軟性こそHubの強みであり、その価値は今後も変わらないと考えています。
 Hubの最大の魅力は、「自主性」と「ゆるくつながる」という特徴をバランスよく持ち合わせている点。結果として共同研究や様々な形の連携も生まれてきましたが、これを第一の目的にしていない点も特徴だと思います。このボトムアップ型の組織では、「おもしろい」という純粋な理由で人が集まり、それが自主性やモチベーションという形で活動の原動力となっています。一方で、持続可能な運営を目指すためには、財源の確保など運営基盤を整えることは重要な課題です。大学の支援や企業スポンサーの協力があれば、より安定的に、継続的に学外の方ともつながり続けることが可能になっていくと思っています。

Kumadai-Hubの今後については?

佐藤助教:今後は、地域への社会貢献も重要なテーマになると考えています。たとえば、まちなかの施設や公共スペースを活用したポスター展を開催することで、地域住民との接点を増やし、より広い層にアプローチしてみたいです。また、高校生の参加を積極的に許容することで、若い世代に研究や社会活動の魅力を伝え、新たな視点やエネルギーを取り込むことも期待できると考えています。

 これらの取り組みを通じて、Hubは「楽しさを共有できる場」として、多様な人々のつながりから生まれる新たな価値を発展させることが可能ではないかと思っています。

巡回ポスター展発表者
①教師不足という課題をもっと知ってほしい~浅野琳香さん

続いて、第4回ポスター展で発表したお一人、浅野琳香さんに伺います。中学校の教員をされているとか。

浅野さん:長野県出身ですが、2023年度から、阿蘇市の中学校で英語教員をしています。
 普通は採用試験を経てから学校教員になる人が多いですが、今現在の教育現場では学校の教員不足が問題となっています。特に、熊本県は教員不足が深刻だとご存知でしょうか?
 東京に、その課題を解決する活動をしているTeach for JapanというNPO法人があります。私は、そのNPOから派遣された教員として熊本県にやってきました。今回の発表では、Teach for Japanの紹介と、日本の教員不足にどんなアプローチがあるのかを発表しました。

発表内容について教えてください。

浅野さん:Teach for Japanでは、教員免許の有無にかかわらず多様な人材を選考。教員になるための研修を実施し、その後、各地の自治体と連携し教員免許状を出し、2年間、「派遣フェロー」として各自治体に派遣します。
 私は既に教員免許を持っていましたが、教員になる前に研修を通して多様な経験を積みたかったため、本制度の派遣フェローとして現在教壇に立っています。多様なバックグラウンドを持つ人たちがフェロー登録しているので、そのような方々と学び合えるのもTeach for Japanのいいところ。例えば、近県の学校に派遣されている先生たちと、どこかのカフェで集まって、「移動職員室」なんて言いながら交流することもあるんです。悩みや喜びを、勤め先の学校以外の全国の同志と共有できることもTeach for Japanならではの醍醐味です。

阿蘇市での教員経験はいかがですか。

浅野さん:熊本県の阿蘇市に派遣と決まり、阿蘇市について調べてみたところ、火山のカルデラの中に人が暮らしていると知ってびっくり。赴任した直後は、方言が分からなくて苦労しました(笑)。しかし、中学校の先生たちも保護者の方々も、そして地域の方々もすごく温かくて、赴任してよかったと感じています。毎日目の前にいるのは、長野県にいたら絶対に出会うことはなかった子どもたち。何かしらの縁があって知り合えたので、この縁に感謝し大切にしたいです。

➁放射線関連の教育や研究支援が充実しています!~後藤裕樹准教授

最後に、後藤裕樹准教授にお話を伺います。今回どのようなポスター発表をされたのでしょうか。

後藤准教授:私は2024年度に、熊本大学の生命資源研究・支援センターに着任しました。今回は、当センターで行っている研究、教育、そして研究支援について発表しています。中でも特に、センターのアイソトープ総合施設の紹介と、そこで行っている研究支援を説明しました。
 ラジオアイソトープとは、放射線を放出する性質を持つ特定の原子のことです。このような原子は不安定で、安定した状態になるために放射線を出します。放射線は医療分野で広く利用されているほか、放射化学の手法として、物質の分析や考古学・地質学分野での年代測定などにも活用されています。医療だけではなく、様々なことに放射線が活用されていることを紹介しています。
 この放射線を研究で使うための教育訓練も担当していますので、ポスター発表では教育訓練でどのようなことをしているか、加えて、自分が現在取り組んでいる研究の話もしました。

先生はどのようなご研究をされているのですか。

後藤准教授:がん研究として、転写因子に着目しています。転写因子は様々な遺伝子を調節するタンパク質で、がん細胞ではその発現が正常細胞よりも増えたり減ったりと、違いがあります。その「違い」を糸口にした治療法の開発が研究テーマの一つです。
 また、放射免疫療法の研究も進めています。治療用に作られた抗体はがん細胞の表面に出ている分子にくっつきます。それだけでは免疫反応が起こるのみですが、この抗体にラジオアイソトープ(放射性同位体)をくっつけて運ぶことができれば、がん細胞が存在する局所にだけ放射線を運んで治療が可能になります。外から放射線を当てると正常な細胞まで叩いてしまいますが、この方法なら副作用を減らすことができ、抗体自体ががん細胞にも効くので、よりよい治療法になると考えています。

このポスター展についてはいかがでしたか。

後藤准教授:私は熊本大学に赴任する前、アメリカで研究をしていました。アメリカでは、職位や分野を問わずに自由に交流できる機会が多かったのが印象的でした。今日の巡回ポスター展には海外出身の方も参加されており、普段は接点が少ない異分野の先生や学生が交流できる貴重な場になっていると感じます。このような場は、これからの時代にますます重要になると思います。つながりが広がることで、新しい可能性が生まれるといいですね。とはいえ、このポスター展に初めて参加して私が一番価値を感じた点は、自分を表現しながら楽しむ場であるということです。何事においても、楽しむことがとても大切だと思います。