強風が建物に与える影響を明らかにして、防災や未来の暮らしに役立てたい
大学院先端科学研究部 土木建築学部門 循環建築工学分野
友清 衣利子 教授
インタビュー担当の健児くんです。
九州は台風など強風被害の多い地域。近年ではその被害が全国に広がっています。そんな強風と建物被害の関係を研究しているのが友清 衣利子教授です。どこでどんな風が吹くかのシミュレーションなどを通して、風に強い建物の構造や住宅の強風対策などを明らかにしようとしている友清先生にお話を伺いました。
私が研究しているのは、強風が建物に与える影響についてです。台風や竜巻などがもたらす強風が建物にどんな被害を及ぼすのか、その被害を防ぐために建築構造的にどんな工夫をしたらよいかを考えています。
研究にあたっては、実際に台風や竜巻の被害が発生した地域に行って、どこでどういった壊れ方が起きているかを見ることも多いです。最近は台風10号の被害が宮崎で発生したときに現地調査に行きました。どこで屋根が吹き飛び、老朽化した壁面が壊れたかなどの被害状況を分析することで、どうすれば壊れにくい構造になるかを考えます。同時に、住民の皆さんが個人として対応できることも、機会を作って伝えるようにしています。
(強風被害が発生した場所をマッピングした画像) |
最近は、「強い風が吹きそう」などの報道が以前より早く周知されるようになりました。風で飛びそうなものを外に出さない、雨戸を閉めるなどの対策はしていただけるようになったのではないかと思います。
ですが、台風の規模が大きくなったり、今までにない進路を通ったりすることも多くなりました。以前は九州に来ることが多かった台風も、今は近畿や関東に上陸することが増えています。被害が起こる場所が異なれば風の向きや強さも変わるので、注意して見ていきたいと思っています。
学生時代に入った研究室の先生が「風と振動」というテーマで研究されている方でした。もともと建築と人の暮らし方に興味があったのですが、高校までの勉強と大学での勉強は全く違っていて、分からないことを調べるというのはとても面白いことだなと感じていました。
そんなとき出会ったのが風の振動学。「見えない風が建物に大きな影響を与える」というのがよく分からなくて面白いなと。研究室に入ってからも自分で考えて、調べて、実験して、というのはとても楽しかったですね。
私が研究を始めた90年代の91年、99年、2004年は熊本に台風の被害がかなり多かったんです。現地調査にもたくさん行くことができましたし、九州電力と恩師が協力していたので、九州電力が持っている風の観測システムを使わせていただくこともできました。九州の風の状況や被害をたくさん見ながら実地で研究ができたことは、とてもありがたかったです。
同じような風の強さでも、周辺の地形や大気の温度などちょっとしたことで、どこでどのくらいの風が吹くかは分からなくなるんです。例えば、2004年佐賀で発生した台風23号の被害では、台風から離れているある町だけ大きな被害が発生しました。そこで風洞(人工的に小規模な流れを発生させ、実際の流れ場を再現・観測する装置)に地形モデルを入れた実験や、数値シミュレーションだけでなく、気象学や地形的な視点からも調べて、なぜそのような被害が起きたのかを分析しました。数値シミュレーションでもある程度のことはできるようになったのですが、地形の違いを考慮しようとするとなかなか再現ができないこともあります。なので、模型を作ってやることも多いんですよ。
(大きな風洞。透明な箱の部分に地形モデルを入れて風を吹かせる) |
今は、風向の変化を再現できるような風洞を作ろうとしています。今の風洞では、風は一方向にしか吹きません。実際は台風のように、風速も風向も変わります。実際の状況を再現するのはとても難しいのですが、これができるといろいろなことが分かるようになるのではないかと期待しています。
(友清先生が試作中の風向や風速の変化を観測できる風洞) |
今は、地面に近い、人が住んでいるところをメインに研究をしていますが、今後はもう少し上のところがテーマになるのではないかと思っています。空を飛ぶ車やドローンでの運輸などが普通になれば、都市のちょっと上の気流を知ることがとても重要になるはずです。それをどうやったら調べられるかがテーマの1つ。実験などでシミュレーションできるようにしたいと思っています。
学部の皆さんには、なぜそうするのか、どんな考えの上に設計用の式ができているのかなどを知ってもらって、「自分で考えて建物を作れる人」になってほしいと思っています。解き方だけ知っていてもつまらないし、自分で考えて分からないことを調べる面白さも知ってほしいですね。
研究室の学生さんには、自分で結論を導き出す方法も考えてもらって、自分で答えを探す楽しさを伝えたいと思っています。私自身、分からないことを探すのが面白いと思っているので、答えを自分で探す研究の魅力を感じてもらいたいです。