見事な形の巨大アンモナイトがお出迎え!
熊本大学キャンパスミュージアム推進機構・理学部主催の「特別展 アンモナイト」に行ってみました
大学院先端科学研究部(理学系)
基礎科学部門 地球環境学
小松 俊文 教授
大学院先端科学研究部(理学系)
基礎科学部門 地球環境学
小松 俊文 教授
インタビュー担当の健児くんです。
熊本大学では、現在、アンモナイトの特別展が開催中です。直径70cmもある巨大なアンモナイトから、「これもアンモナイト!?」と驚くような、とっても変わった形をしたアンモナイトも展示されています。会場はなんと、重要文化財である五高時代の建物「化学実験場」。担当の小松俊文教授に見どころを聞いてきました。これを読んで、ぜひ、特別展に行ってみてください!
北海道で実施した、大学院の野外実習中に巨大なアンモナイトが見つかったことです。これを熊本大学キャンパスミュージアムで管理することになり、今回、企画展を開催することとなりました。企画展の見どころの一つも、まさにこの巨大アンモナイトですね。直径は70cm以上もあるんです。触ってもらうこともできるので、ぜひ企画展に来て、アンモナイトをはじめ、今では考えられないような生き物がたくさんいた時代の海を想像してもらいたいと思います。
アンモナイト類が出現したのは古生代のデボン紀で、絶滅したのは中生代の終わりの白亜紀です。これらのアンモナイト類を分類学的にはアンモノイドと言います。少し詳しく説明すると、日本で「アンモナイト」というとこのアンモノイドを指す場合と、アンモノイドの中の1グループである三畳紀から白亜紀に生息したアンモナイト目を示す場合があります。学校で使う教科書などで「アンモナイトは中生代の示準化石」とされているなら、それは三畳紀から白亜紀に生きていたアンモナイト目のことになります。
アンモナイトと言われて思い浮かべるのは、殻が平面状にぐるぐると巻いたものだと思いますが、それは平面螺旋形と呼ばれる巻き方のアンモナイト(正常巻きアンモナイト)です。でもアンモナイトはそんな形ばかりではなく、異常巻きアンモナイトと呼ばれるグループもいるんです。「異常巻き」と言っても種あるいは属ごとに一定の規則的な巻き方をしていて、尖った巻貝のような形やらせん状の形態、蚊取り線香のような極端な緩巻きのもの、まっすぐのまま巻かない種類もあります。また種によっては、一見すると巻き方の規則性が分かりにくいものもあり、あるタイミング(成長段階)で曲がったり、ねじれたり、成長のスピードが変化するものもいます。今回の特別展では、見事にクリーニングされた数々の異常巻きアンモナイトも見どころの一つです。
実は九州で見つかるアンモナイトの多くは、アンモナイトの死殻を覆う堆積物(地層)の重さによって潰れているものが多いんです。熊本県の天草ではよくアンモナイトが見つかりますが、やはりほぼ平らに潰れた状態です。北海道で見つかるアンモナイトが立体的な形で残っているのは、遺骸が化石になる過程の堆積物の状態や軟体部の腐敗の進み方などが大きく影響します。北海道では、地層をつくる泥や砂が石化する際、早い段階で化石の周りだけが先に石化するという現象が起こり、それがシェルターのような役割を果たして、アンモナイトのような内部が空洞の化石でも潰れずに立体的な形で残されています。一方で九州は、化石の周りだけが先に石化するという現象が起こらなかったため、化石が上に重なる地層の重さで潰されてしまったんです。さらに堆積物全体の石化が進んだ後、構造運動の影響で強い圧力を受けてしまい、形もいびつなものが多いです。
今回は、同じ種類なのに北海道と九州で全然違う形の化石になってしまったものの比較展示もしていますので、そういうところもぜひ見てもらいたいですね。
もう10年来のお付き合いをさせて頂いています(最初に知り合ったのは25年ほど前です)。お世話になっているのは、北海道の三笠市立博物館の元館長、長谷川浩二さんのほか、化石愛好家の松田敏昭さん、深尾政之さん、岡島孝義さんです。巨大アンモナイトが見つかった時の野外実習にも同行してくださっていて、このアンモナイトを谷底から道路まで引き上げる時は、機材や車も出して手伝ってくれました。
長谷川さんは地元では「アンモナイトのお医者さん」と呼ばれていて、地元やアンモナイト研究者の間ではよく知られている方です。見つかった巨大アンモナイトを石から取り出す作業も長谷川さんがボランティアで対応してくれました。これらの方々の御自宅には立派なアンモナイトの展示室や展示小屋があり、たくさんの素晴らしい標本があります。今回は熊本大学の特別展のために、この中から一級標本を提供してくれました。なお、松田さんは猟師で、私たちが北海道で調査をする時は、野生のヒグマの問題があるため、野外実習の前に実習地域の事前調査をしてヒグマの分布や出没状況、雪解け水や沢の水量などを確認してくれます。今回展示しているヒグマの毛皮や写真も、「九州の人はめったに目にすることはないだろうから」と言って貸してくれました。北海道の地元の皆さんには、本当に感謝しています。
はい。ぜひ、聴きに来て頂きたいと思います。講演してくださるのは、アンモナイト研究では第一人者の九州大学の前田晴良名誉教授です。
11月30日の講演会は、化石好きの小中学生向けで、「動物や植物がなぜ化石化するのか」や、アンモナイト以外の化石も紹介される予定です。小中高校生にはアンモナイト化石のプレゼントもあります。12月1日は2回の講演が予定されていて、アンモナイトの巻き方の理論的データを使ってシミュレーションをすると実際に特定の種の巻き方になるという、アンモナイトの巻き方にいかに規則性があるかなど、1日の午後は専門的な話になります。大学生や大学院生はもちろんですが、一般の方や中高校生にとってもおもしろい話だと思います。また、12月1日の講演は、五高時代に使われていた化学実験場の階段教室で行うので、普段公開されていない場所で、明治時代の講義の雰囲気も味わえますよ。
専門は、地質・古生物学です。
例えば地層の特徴から、昔、どういう場所で地層ができあがったのかが分かります。そこから化石が見つかり、化石の産状や保存状態などを検討すれば当時の生物がどのような環境に生息していたかなどが明らかになる場合があります。また、アンモナイトや微生物の化石を調べることで、地層の年代を明らかにすることができます。もともとは二枚貝やアンモナイトなど軟体動物化石を研究していたんですが、今は地質調査で見つかった化石については何でも研究対象にしていて、1mm以下のプランクトンから恐竜まで研究しています。
日本国内は九州を中心に全国、海外は中国やマレーシアで研究をしてきましたが、最近はベトナムを中心に調査をしています。レアメタルなどの鉱物や化石などの研究では中国が宝の山ですが、大陸の場合、地層は国境に関係なくつながっていますから、ベトナムでも素晴らしい標本を用いた研究を進めることができます。ただベトナムでは、古生物学分野の研究者が少ないとか、ベトナム戦争の影響や地雷の問題などで地層や化石の研究が進んでいませんでした。2005年の国際会議で東アジアの化石や地質について発表をした際にベトナムの研究者と共同研究が成立し、現在でもベトナムで調査や研究をしています。
失われてしまった世界を復元できるところ。復元できる世界にはもちろん生物も含まれています。私の場合は幼い頃から生き物が好きだったこともあって、現在は存在していない生物の様子や生態系を復元することに、おもしろさを感じます。さらに過去の生物の絶滅や大量絶滅は現在の生き物の今後にもつながってくる話なので、将来の環境や生物相の変化などを考える上でも興味深いですよ。
アンモナイトの様々な標本のほかに、熊本大学に残されていた戦前のアンモナイトや、五高時代の授業でスライドや映像の代わりに使われていた教育掛図(掛け軸)も展示しています。また、ベトナムとの共同研究の成果や、熊本大学の卒業生がアンモナイトを用いてどんな研究をしていたかも紹介しています。熊大生はもちろんですが、ぜひ多くの小中高生に、熊本大学で化石の勉強や研究ができることを知ってほしいですね。