スマートフォンアプリを開発する全国的な競技会(ハッカソン)「SPAJAM 2024」の九州予選会」が9月中旬、熊本市で開かれ、城本啓介情報融合学環長の研究室の学生を中心としたチーム「Matroid Cafe」が最優秀賞を獲得しました。11月に神奈川県の箱根で開かれる本選に出場します。今回は「Matroid Cafe」チームの5人に話を聞きました。
「Matroid Cafe」のメンバーは、大学院自然科学教育部修士2年の川渕晋哉さん、山﨑貴智さん、同1年の原田虎汰郎さん、工学部機械数理工学科4年の工藤琴羽さん、半導体・デジタル研究教育機構総合情報学部門データサイエンス分野の今村浩二特任助教の5人。ちなみにチーム名の「Matroid」とは数学用語で、本活動を通して数学の面白さをより伝えたいという想いを込めて名付けられたとのこと。
川渕さん:SPAJAMは、年1回開催されているアプリを開発する全国規模のハッカソンです。「ハッカソン(Hackathon)」とは、プログラムの改良を意味するハック(hack)とマラソン(marathon)を組み合わせた造語で、IT技術者がチームを組み、与えられたテーマに対して、定められた期間に集中的にソフトウェアやサービスを開発し、アイデアの斬新さや技術の優秀さなどを競い合うイベントのことです。予選会はオンライン3回、リアル会場3か所で開かれ、このうちリアル会場の一つが、9月14日、15日に熊本城ホールで開催されました。九州内の大学や高専などの7チームが参加し、当日示されるテーマをもとに、24時間でアプリの企画からデザイン、開発までを行います。技術力はもちろん、アイデアの斬新さやチームワークも問われます。
川渕さん:まずアイデアを出し合い、どんなアプリにするのか決まったら、思い描いた動きをするようにプログラミングしていきます。5人で分担してプログラミングし、アプリを開発するための時間は、9月14日午後1時から15日午後1時までの24時間。初日は午後8時に会場が閉まると、研究室に帰ってさらに開発に取り組みました。研究室で夜遅くまで、みんなでわいわい作っていくのは楽しかったです。
私自身、大会への参加は2回目。昨年はアイデアを出すために多くの時間を使ってしまい、実装する時間が押されてしまったので、今年はまず形を作って、さまざまな機能を入れていくために時間を使いました。全員で協力し、それぞれの役割を上手く果たし、無事に時間内に完成させることが出来ました。
川渕さん:大会当日、示されたテーマは「とも」。私たちのチームは「MoT~灯達を供養して~」と題したアプリを開発しました。研究するときや何かを開発しようとするとき、アイデアがたくさん浮かびます。しかし、没になってしまうアイデアも多くあります。没になったアイデアも、ほかの人だったら別の使い方で活かすことができるかもしれません。そこで、ほかの人が没になったアイデアを、別の使い方で活かせそうであれば昇華させたり、何も他のアイデアがなく使えなさそうであれば、没アイデアとして供養したりするアプリを開発しました。
(開発した「Mot」) |
(アイデアを「供養」、「昇華」している画面) |
川渕さん:「良いアイデアは没アイデアを伴う」ことから、テーマの「とも」と繋げ、開発アプリの名称「Mot」は、「TOMO」を逆転させ、「O」を一つにしました。また、供養の「供」は「とも」という訓読みがあります。さらに、他人の智慧を借りるという意味もあり、智慧の「智」も「とも」と読みます。
実際に開発したアプリを見せていただきました。
アプリを開くと、没アイデアが「灯」として漂っています。その一つをタップすると、没となったアイデアが開きます。
川渕さん:没アイデアの灯達と書いて『ともだち』と呼んでいます。テーマの「とも」にも繋がっています。
このアイデアをもっとブラッシュアップできると思ったら、上にスワイプして昇華させます。これに対して、アイデアをあまり持っていないと思ったら下にスワイプして、供養します。
また、このアプリのポイントは、AI(人工知能)が組み込まれていること。アプリ内にAI博士がいて、質問を投げかけることができます。何かいいアイデアはありますか、と文章を入力すると、AIがアイデアや改善案などを提案してくれるんです。AIと「共創」してプラッシュアップが可能なものになっています。
川渕さん:審査員の評価が高かったのが、数学的要素を組み込んだことです。
画面で灯達が動いていますが、完全にランダムになるように、二次元ランダムウオークを実装しています。灯達が上に行くか、下に行くか、右に行くか、左に行くか、予測ができないようになっています。画面でランダムに動く「灯達」を見たり、動く「灯達」をつかまえてタップしたりするのも楽しんでもらえればと設定しました。
「アイデアを供養する」というアプリの原案を考えた原田さんにお話を伺いました。
原田さん:テーマの『とも』という言葉を聞けば、友達や協力など、ポジティブなイメージが浮かぶと思います。ほかの人はポジティブなものを挙げそうだなと思ったので、あえてみんなとは違う方向でやってみようと思いました。
この「独自路線」が優勝につながったんですね。ただ、原田さんは「もっと追加させたい機能があった」とのこと。
原田さん:アイデアを昇華させた人から、『こうしたらいいのではないか』といったアドバイスを発案者に送るような機能を付け加えたら、双方に対していいのではないかと思います。もっといいものにしていきたいです。
イラスト制作などのデザインを担当した工藤さんにお話を伺いました。
工藤さん:『供養』という言葉を聞くと、ちょっと怖いイメージを持たれるかなと思ったので、かわいらしく、ポップな絵にして親しみやすくできるようにしました。
川渕さん:5人はアイデア力、デザイン力などバランスが取れたチームです。持ち味を生かして、本選でも最優秀賞を目指します。
山﨑さん:意見が分かれたときに、指針を決めるマネジメントの役割をしました。プログラミングやデザインなどにも関わって、もっとうまく調整できるように頑張りたいです。
原田さん:本選は全国から高いレベルの人たちが集まるので、優勝するには何か光るものが必要だと思います。時間内にアイデアを実装できるように、プログラミング力を上げていきたいです。
工藤さん:求められるデザインを24時間以内で仕上げるのは大変ですが、デザインの面でチームの力になれればいいなと思っています。
今村先生:予選では役割分担がうまくいきました。私は全体に関わってアドバイスを出したりしました。もっと技術面を磨いて、本選に挑みたいです。
(前列左から工藤さん、川渕さん、後列左から山﨑さん、今村先生、原田さん) |