半導体の3次元集積技術で新しい世界に貢献したい

半導体・デジタル研究教育機構

大川猛 准教授

研究
インタビュー担当

インタビュー担当の健児くんです。
台湾のTSMCの進出など半導体産業が盛り上がる中、熊本大学では半導体・デジタル研究教育機構を設立するなど、新たな半導体プロセスの研究に力を入れています。今回は、世界的に注目されている半導体の3次元積層技術について研究している大川猛准教授にお話を伺いました。

半導体チップに多くの機能を作り込む3次元集積技術の研究

どのような研究をされているんですか?

大川先生:一言でいうと半導体チップの研究です。半導体チップはシリコンウェハと呼ばれる板の表面に回路を作り、いろいろな機能を作り込んでいきます。これまでは、多くの機能をもたせるため非常に細い配線を作ったり、部品を小さくしたりするなどの工夫がされてきました。ですが、装置のコンパクト化が進む中、これまでの方法では限界があります。

そこで注目されているのが、チップを重ねてシステムを作る3次元集積技術です。システムがコンパクトになるだけでなく、うまく仕組みを作れば、これまで以上の機能を作り込むこともできるようになると考えられています。熊本大学では、この技術を活かし、複数の半導体を1つの半導体であるかのように連動させるパッケージング技術に強みのあるシステムを作ろうとしているところです。

半導体研究には、ハードウェアの部分とソフトウェアの部分、大きく2種の研究がありますが、私がやっているのは主にシステムをどのように設計するかというソフトウェアの部分。積み上げたチップの間がつながったとき、どういうシステムを作ることが可能かということを研究しています。

実用化されるとどのようなことが可能になるのでしょうか?

大川先生:今ターゲットにしているのはロボットです。3次元集積のシステムを使うことで、これまで以上にコンパクトなシステムが構築できます。画像をAI認識させてロボットの動作につなげるような応用ができると期待しています。例えば、カメラで画像を撮影しただけでどんなモノかを認識し、それに応じて必要なモータを動かすなどの処理をするシステムができるのではないかと思います。

またIoT分野での活用も有効だと思います。例えば農業分野なら、畑のいろいろなところで温度や水分、風のデータをセンサーで取得し、処理したものをインターネットで送る仕組みです。現在の技術ではお弁当箱くらいのサイズのシステムになってしまいますが、3次元集積のシステムなら、米粒くらいのサイズにできます。多くの場所に設置できるので、情報の精度も上がり、コストも抑えられると期待しています。

自分がプログラミングしたものが画面に表示された喜びが原体験

半導体などの分野に興味を持ったのはいつ頃からですか?

大川先生:半導体の研究を始めたのは大学で半導体の研究室に入ってから。FPGAと呼ばれる、現場で書き換えが可能な集積回路の設計自動化ついて研究していました。どのように設計すればハードウェア、すなわち集積回路と、ソフトウェアを効果的に働かせて、低消費電力で高性能を得られるかという基礎研究でした。3次元積層の研究を本格的に始めたのは熊本大学に来てからです。

プログラミングやコンピュータには昔から興味があったんですか?

大川先生:プログラミングやコンピュータに興味を持ったのは小学生低学年のころです。当時の8ビットのパソコンを父が買ってきたんです。ちょうど家庭用コンピューターゲームが出始めたころ。ゲーム機は買ってもらえなかったので、パソコンでプログラムを書いてゲームみたいなものを作って楽しんでいました。ちょっとキャラクターがでて、キーボードで動かすくらいの簡単なものでしたが、自分がプログラムした通りにコンピュータが動くことに面白さを感じました。その後、マイクロプロセッサそのものが解釈する機械語(アセンブラ)を使って、画面に点が表示されたときの感動は忘れられません。これが原体験になって、今につながっていますね。

シビアな企業の目に刺激を受けながら、世の中の役に立つものを作る

先生の研究室では、企業との共同研究もやっているそうですね。

大川先生:地元の企業と組んでやっているのは、3次元集積技術の標準規格です。私たちが考えたものを世界に広げていきたいと思っています。先方も積極的でとても面白いです。

企業の人のシビアな目線からのフィードバックはとても勉強になります。企業の皆さんは、若い学生から刺激がもらえるとおっしゃっていて、Win-winになっていると感じますね。

学生の皆さんに一言お願いします

大川先生:研究テーマを考えるときは、今すでに世の中にあるものを作っても面白くないと思っています。どんなものを作ったら世の中の役に立つか、世の中の開発者がどんなものがあれば便利になるかを考えるのが面白いんです。それこそが研究なのかもしれません。

そのためにも、アウトプットすることを意識してほしいですね。作ったものを友達に見てもらうとか。違う視点て見てもらうと、新しい考えがもらえるだけでなく、自分の成長もわかるし、自分に何が向いているのかも見えてきます。高校生や学部生で自分がやりたいことはなかなか見えないかもしれませんが、少しでも目に見えるカタチにしてみると、わかることがあると思いますよ。

研究室に所属していない学生にも「こういうものが面白いよ」と本などの紹介もできます。ぜひ、遠慮せず声をかけてみてください。