データ分析で競技力向上をめざす 熊本ヴォルターズと共同研究

大学院教育学研究科 教育学部

末永祐介 准教授

研究
インタビュー担当

インタビュー担当の健児くんです。よろしくお願いします。
熊本大学は2024年4月、バスケットボール男子B2リーグ所属の熊本ヴォルターズと桜十字グループの3者による包括連携協定を締結しました。今後、渡鹿体育館を拠点に共同研究を行い、スポーツ科学分野でチームをサポートしていきます。これらの研究に取り組む大学院教育学研究科・教育学部の末永祐介准教授に話を聞きました。

パフォーマンスを上げるための技術を明らかにしていく

共同研究では具体的にどのようなことをなさるのか、教えてください。

まず、バスケットボールでの効果的な戦術行動に関する研究をします。戦術行動の分析は、なぜそこでドリブルをするのか、誰にパスをするのかなど、ゲーム中の行動すべてが対象となります。試合のビデオを基に、例えば「10番の選手がボールを持った瞬間」「シュートした場面」「シュートが成功した場面」などを集めると、「成功したときはこうだった」「失敗したときはこうだった」という傾向が見えてきて、チームの約束事に沿った分析ができます。

自チームの行動分析のみでなく、熊本ヴォルターズが次に対戦する相手チームのデータ分析など、どのデータを基にどのような分析をするか、今後チームと話し合い決めていく予定です。

また、それとは別に、視線行動に関する研究も行う予定です。視線がわかるカメラを着けてプレーしてもらい、競技中の視線の動きを調べます。パスをもらう側は自分のどこがどう見られているのかを知ると、どのタイミングでどう動けばいいか、わかってきます。

そのような分析により、ゲームパフォーマンスを上げるための研究をしていきたいと思います。

(左から熊本大学の小川久雄学長、医療法人桜十字の倉津純一理事長、
熊本バスケットボール株式会社の湯之上聡代表取締役社長)
(調印式で共同研究について話す末永准教授)

コーチング法に関する研究もされるようですね。

例えばコーチが選手にどのタイミングでどういう声をかけたか、どういうフィードバックを与えたか、それらを定量的に計測して、選手のパフォーマンスと対比させると、「この選手にはこういう声かけがあるとパフォーマンスが上がる」といった傾向が見えてきます。人間ですから「こうすれば、こうなる」とは必ずしも言えないのですが、スポーツの世界では高い指導技術を持ち、「あの人の教えるチームは強くなる」という達人がいますね。何が違うのか。そこには何かがあるはずなんです。達人が持つ技術をデータ化して明らかにしていくことは、とても意味のあることだと思っています。

学生がプロチームを分析 他のモデルに

プロチームのデータ分析をしている大学はほかにあるのでしょうか。

データ分析でプロのバスケットボールチームと密接に関わる大学は、自分の知る限り、国内ではほかにないと思います。チームと連携協定を結んでいる大学もありますが、試合をするときにどうしたら人を集められるか、という取り組みがほとんどです。チームの戦術やチーム力の強化に取り組んでいる大学はほかになく、おそらくBリーグでも稀有な存在だと思いますので、モデルになる取り組みにしたいです。

この研究には熊大の学生も参加されるのでしょうか

熊本ヴォルターズを支える学生を募集しようと、「スポーツ教育研究会」を立ち上げました。データ分析に興味がある学生がいろんな学部から集まってきています。学生にとっても、プロチームの分析に関わることができるのは貴重な経験で、大きな学びになると思います。どんな分野に就職しても、ここで学んだ知識と経験は役に立つと思いますよ。
今後は、バスケットボールに限らず多様なスポーツに展開し、年間を通して県民の健康につながるような活動をしていきたいです。

スポーツの前後で摂取すべきメニューも開発へ

食事のメニュー開発にも取り組まれると聞きました。

和水町で「火の本豚」ブランドを展開する株式会社アンドサイキと、学童保育などを手掛ける一般社団法人SEPの協力で実施します。「火の本豚」を使って、スポーツの前後で摂取すべきメニューの開発をしようと思っています。研究会の学生が豚肉の特徴や飼育法などを調べ、連携協定を結んだ桜十字グループの管理栄養士に相談し、メニューを考案します。まずは大学の学食とVolters Kitchenという熊本ヴォルターズが運営しているこども食堂で提供する計画です。食べた人からフィードバックをもらって改善し、次のシーズンが始まる秋には、チームに提供できればと考えています。また、「火の本豚」を通して、和水町の活性化にもつながればいいですね。

先生ご自身もバスケットボール競技をされていたのですか。

中学から競技を始め、大学では選手の他に学生連盟の役員として大会運営と審判をしていました。大学院ではバスケットボールのプレーや審判の研究に取り組みました。審判の研究は、動きを判定するために求められる能力をどう高めるか、といったものです。大学院を出た後はバスケットボールのチームに運営スタッフなどとして入りたかったのですが、当時は不景気でチームの存続自体が危機的な状況。小学校教諭となりましたが、教員の養成に携わりたいと思い、大学院に戻り、私立大学の教員を経て、2年前に熊本大に着任しました。

テクノロジーを使って、試合を何倍も楽しみたい

今後の展望を教えてください。

スポーツにはスポーツ医学という分野があるほか、栄養、文化、文学、法律など多様な専門分野があります。今後、そのようなさまざまな分野で活躍する学生を育てていきたいと思います。
また、現在家庭科が専門の先生と協力して、選手が快適に練習できるウエア開発を考えています。私の勝手な妄想ではこの研究を発展させて、スポーツの試合会場で大量に発生するペットボトルのごみを使って練習着等を作れたらいいと思っています。

ほかにもテクノロジーを使って、いろいろなことにチャレンジしていきたいです。VR(仮想現実)ゴーグルを使って、どこにいても試合をリアルタイムで観戦できるようにしたいと思っています。自宅にいながら県立体育館の臨場感も味わえるということが出来たら楽しいですよね。また、試合会場ならではの楽しみとして、体育館でスマートフォンを活用して、試合を何倍も楽しめるようにしたいです。例えば選手のユニホームにマイクロチップを着けてもらい、座席にはQRコードをつけ、位置情報を特定し、席からスマートフォンを選手にかざせば、身長やシュートの回数といった情報が出てくるようにできれば面白いですよね。

今の子どもたちは外で遊ぶ機会が少なく、どうしてもゲームをしがちです。今後はVRやAR(拡張現実)を使ってスポーツをするようになると思います。ゴーグルを着けて、ボールを投げたら友達の見ている空間に届くようにしたい。子どもたちにスマートフォンを使うなとは言えません。うまく使ってスポーツができるようなものが開発できればと思っています。

最後にスポーツの楽しみ方について、一言お願いします。

スポーツはプレーを「する」だけでなく、「見る」「支える」「知る」などいろんな楽しみ方があります。生活の中にスポーツがあると、どれだけ豊かなことか。それによって幸せが得られることも知ってほしいと思っています。私もよくヴォルターズの試合を見に行きますが、勝った負けただけではなく、選手と一緒の空間にいられる幸福感があります。県立体育館に行ったら、世代の違う方々と肩を組んだり、大声を出して応援したり、普段と違う自分になれるんです。そして「次の日も頑張ろう」と思える。試合会場が社交場になって、いろんな人が交流できるといいなと思います。