研究の舞台は宇宙!超巨大ブラックホール誕生の謎に挑む
熊本大学大学院先端科学研究部 基礎科学部門
高橋慶太郎 教授
インタビュー担当の健児くんです。よろしくお願いします。
宇宙には、解明されていない謎がいっぱいあります。その一つ、超巨大ブラックホールがどうやって生まれるのかを解き明かす研究を行っているのが大学院先端科学研究部(理)の高橋慶太郎教授。壮大な宇宙に思いをはせる、ワクワクするお話を伺いました。
高橋先生:物理学の中の、宇宙物理学や天文学と言われる分野の研究をしています。物理学を使って宇宙の謎を解き明かすもの。宇宙を観測し、理論的に計算したりコンピューターでシミュレーションするなどして研究します。その中でもこの研究室が見ているのが、ブラックホールです。
宇宙にある大きな恒星が自らの燃料を使い果たしてしぼんでしまうと、重力が強すぎるためにブラックホールが形成されます。太陽も恒星ですが、太陽くらいの大きさの恒星はブラックホールにはなりません。ブラックホールになるのは、太陽よりもずっと大きな恒星です。
宇宙には太陽の10倍から数十倍の大きさのブラックホールがたくさんあります。しかし、銀河系の中心には、そこに鎮座するように1個だけ超巨大ブラックホールがあるんです。その質量は、太陽の100万倍から10億倍。この超巨大ブラックホールがどうやって形成され成長するのかはまだ分かっておらず、その解明が研究目標の一つです。
高橋先生:超巨大ブラックホールの形成には、有力な仮説があります。それは、宇宙にたくさんある、それほど大きくないブラックホールが次々に合体して、100億年以上をかけて巨大になる、というもの。正面衝突のようなものではなく、お互いがぐるぐると回りながらだんだんと距離を縮め、やがて合体すると考えられます。ブラックホールのような重い天体同士がぐるぐると回ると重力波というものが放出されるんです。地球上でこの重力波をとらえ検証すれば、この合体説が正しいかどうかが分かります。
ただ、重力波は「空間のゆがみ」であり、直接とらえることはできません。そこで私が観察しているのがパルサーという種類の天体です。パルサーは宇宙にたくさんあって、周期的に光り電波を発します。灯台のような感じですね。パルサーからの電波周期が、重力波が通過することで空間がゆがむとわずかにずれるんです。例えば、本来1秒ごとに届くはずの電波が0.9秒になる。それを解析することで、重力波を検出します。
超巨大ブラックホール連星から重力波が放出され、パルサーの観測によってそれをとらえる パルサータイミングアレイという手法 |
高橋先生:重力波は、ブラックホールのような極限的な状況を持つ非常に重い天体からしか発せられません。ぐるぐる回っている2つ以上のブラックホール連星があれば重力波がやってくるので、それを検出できればブラックホールの合体が起こっていると考えることができます。しかし、パルサーからの電波周期の乱れは、必ずしも重力波によるものとは限らないんです。乱れの原因には様々なノイズや誤差もあるため、それらをできるだけ取り除いて本当にほしいシグナルを引き出す必要があり、その作業がなかなか難しいんです。
パルサーを観測する電波望遠鏡はインドにあり、私たちはインドのグループと共同で研究を進めています。観測し、データからノイズや誤差を取り除き、さらにそこから得られたデータをどう物理学的に解釈するのか、そこから何が分かるのか、一つひとつ導き出します。重力波を検出するのに必要な時間は、少なくとも数年から数十年。時間がかかる研究ですが、だからこそやりがいもあります。
口径45mのアンテナ30台からなるインドの大型電波望遠鏡uGMRT (出典:NCRA) |
高橋先生:2023年6月に、ブラックホール連星からの重力波にかなり近いシグナルを得られたとして、インドとヨーロッパのグループと共同で論文を発表しました。世界には私たちと同じような研究をしているグループがありますが、電波望遠鏡とパルサーからの電波を使って重力波を検出するというやり方は誰も成功したことがないんです。その点で、この論文は一つのマイルストーンになったと思います。
高橋先生:子どもの頃から宇宙が好きで、テレビを観たり、科学雑誌『Newton』を読んで興味を持っていました。なんでも吸い込む不思議な現象を持つブラックホールのことを知り、SF的なロマンを感じていましたね。
実際に宇宙物理学に進むと、宇宙には実に様々な、解き明かすべき謎があると思ったんです。その中で自分が研究したい対象がブラックホールでした。実は、重力波を世界で初めて検出したのはアメリカの研究グループなんですが、私が使っているのとは別の方法なんです。どうせやるなら、まだ世界の誰も成功していないやり方で重力波を検出したいと、この研究を始めました。
高橋先生:物理学は、自然現象の背後に潜んでいる法則性を数学的に記述する、という学問です。その舞台を宇宙に移してみると、地球上では起こらないような珍しい現象を観測できたり、地球上では明らかでない法則が明らかになることもあります。
また、私がやっている、ノイズにまみれたデータからシグナルを引き出すという研究は、宇宙に限らず様々な自然科学、例えば最近ではビッグデータから何か有用な情報を引き出すような解析と共通する部分があります。宇宙の研究も、地球上の、私たちが暮らす社会のいろんな現象を明らかにすることにつながっているんですよ。
高橋先生:パルサーと重力波の研究は、あと数年で重力波の検出ができる見込みです。そこから超巨大ブラックホールの形成と成長の謎を明らかにしたいというのが第一。
加えて、地球外知的生命、地球外文明の探索もやっていきたいと考えています。
宇宙銀河系の中には、惑星が約1兆個あると考えられます。1兆個の惑星の中で、地球にしか生命がいないというのは不自然ですよね。おそらく銀河系の中には地球外にも生命がいっぱい存在するのではないか。しかも、単に生命というだけではなくて、我々みたいに文明を持っている惑星が地球以外にもあると考えるのが自然です。電波望遠鏡の性能が向上していますから、宇宙から飛んでくる人工的な電波をとらえることで、地球外生命体を見つけていきたいと思っています。